私に選ぶ権利など無くただそこにあるのは政略結婚という事実のみです。最初から諦めていればこんなにつらい想いなどしなくても良かったのに。朝方寝ぼけて言われるがままに彼の家を出てきた私は鬼のような形相に変貌を遂げた母に早朝からありとあらゆる礼儀作法を三時間で叩き込まれました。お見合いをする最初の訪問者は午前8時からでした。私はげんなりとしおれそうになりました。早くも、打ち砕けそうでしたが私はなんとか全ての礼儀作法についてを頭に詰め込みました。料理が出てくるとか何とか言われましたが、そんな量の料理など食べられるはずもありませんから私は出来るだけ手をつけないようにしようと思いました。そして私はふと考えました。
 そうです、見合いなど嫌なら真面目に受ける必要もありません。相手次第で全部断ってしまえばいいのです。


 私は我ながら妙案だと思い、断る事を前提にしてお見合いに臨む事にしました。そんな事は母には言ってはいませんが、嫌なら断ればいいのです。何を恐れる事がありましょう。私は少しだけ気が楽になり、彼の事を少し考えて焦がれました。そして、お家柄結ばれない運命なのだと自分に言い聞かせました。諦めようと思いました。もう逢わなければきっと諦められると私は考えました。どうしようもありません、母の日程を狂わす事など出来ないのです。しかし見合いを全て断れば、わずかな希望の一つや二つくらいは残るのではないかと浅はかな私は考えるのでした。しかし駄目です、こんなことでどうするのでしょう。相手に心の弱いのを悟られてしまえば私は半人前以下のシャーマンのように見られます。私はぱん、と両頬を叩いて気合を入れました。

 恐れる事など何も無い、前へ進むしか道は無いのです。
 相手になめられたら終わりです、私はそんな意志薄弱なか弱い女の子では駄目なのです。


 私は、多分きっとこれからも一番大好きなのはホロホロ君です。希望はあります、でも彼がなんと言うかそんな所までは私には分かりません。もしかしたら私が今から見合いの彼らに対してするように私だって断られてしまうのかもしれません、それでも私は構いませんでした。大事なのは気持ちでした。
 頑張る頑張らないでは、きっと恋愛はうまくいきません。
 私は少し学びました。
 よく本では相手に惚れた方が負けと言われますが、今回の件に関して言えば惚れてしまった私の負けでした。そして私は完敗でした、きっと今頃彼に軍配が上がっているのでしょう。それでもいいと思いました。私は大好きな彼が幸せになってくれさえすればそれでよかったのです。私の想いなど、ちぎってはすて、ちぎってはすてを繰り返していけばいずれ消えてしまうはずです。彼に対する未練など残しておきたくはありませんでした。なぜなら、これから幸せを掴む彼が迷惑ですから。


 セイレーンが何か言いたそうにしていました。私は「そんな顔をしないで、笑っていてください」と彼女に告げました。彼女は寂しそうに私のほほに触れました。実際は触れる事は出来ないので何となく表面をすうっと冷たい風のような感触が通っただけですけれども、彼女は言いました。


 「我が主、」セイレーンは寂しそうでした。「あの」
 「セイレーン、やめてください。意思が砕けます」


 私は彼女の言葉をすっと避けるように身を翻して彼女と視線を合わせないようにしました。ここで打ち砕けていては、もうすでに試練に負けた事になります。だから、セイレーンの言葉を聴くわけにはいかなかったのです。彼女はきっと、私に優しい言葉をかけてくれようとするのですから。そんな言葉を聴いてしまえば私は一気に意思が砕けてしまうに違いないのです。気の迷いは命取りと何度も母に教わりました。だから、私は今我慢するのです。


 「我が主、」
 「言いたい事は何となく分かります、それでも私は行かねばなりません」
 「貴方は、強くなられた」
 「強くなければ生き残ることなどできないでしょう」
 私は彼女を振り返って微笑みました。それが彼女の瞳にどう映ったかは分かりませんでしたが、彼女は頼りなく微笑みました。今にも泣きそうな顔でした。




 私の事をずっと考えていてくれてありがとう、私は前に進みます。




 大好きでした、そして想いを少し閉じ込めて。














(舞う、ひらり)






























(20100111)