ドラマが終わり伸びをして、「ふああ」と情けない声を上げながらホロホロ君があくびをしました。私も同じように腕を上げて伸びをしますが、あくびは出ませんでした。ぼんやりとした意識の中、ホロホロ君が私を呼びました。テレビでは薬用の湿布の宣伝をしていました。この湿布はとても効くというありきたりな宣伝でした。真剣に私は宣伝を見ました。心臓はどくんどくんと早鐘を打つようで、私は席を立つタイミングを完全に失っていました。 「なあ、」 「なんでしょう」 「すっげェいい話だったよな、さっきの話」 「ええ、」私は言いました。「勇気ある行動だと思いました」 「オレも、ああ言える人間になりてェな」 「みんな、きっとそう思っているかもしれません」 私はテレビ画面を見たまま答えました。湿布の宣伝から、シチューの宣伝へと移り変わっていました。やわらかなメロディーにあわせて画面内に映るおいしそうなシチューの映像と、それを白い皿に盛り付けている家族と、シチューから漂うあたたかそうな湯気と、シチューを食べておいしそうな至福の時間を過ごしている家族に目を奪われていたので、ホロホロ君とは目はあわせられませんでした。 「なあ」 「はい」 「敬語、やっぱりそのままなんだな」 「癖ですから、…直すのには少し時間がかかりそうです」 私が肩を竦めて目を少し伏せました。ホロホロ君の表情は、伺えません。何しろ、テレビしか見えては居ませんから。 「、」ホロホロ君が名前を呼びます。「オレといて楽しいのか?」 「ホロホロ君は、どうしてそんなに悲しい事を言うのですか」 本心から言いました。心の奥底にずきりと衝撃が走ります。それでも自分に素直になれず、私は気恥ずかしさと心臓の鼓動と戦っていました。目を合わせる余裕など、空気中に漂うホコリほどもありませんでした。心臓が爆発しそうでした。彼はどうしてそのような事を聞いたのでしょう、私と居てもホロホロ君は楽しくはないのでしょうか。その事を考えれば考えるほどに胸が締め付けられるようにずきずきと痛みました。何でこんなにもずきずきと痛むのでしょうか。心臓に病を患ったかのように、私はずきずきという痛みと戦っていました。 「さっきからちっとも、こっち向いてくれねェし」 彼は、そう言って私の左肩に触れます。「こっち向いてくれよ」 「…!」 肩を掴まれてぐいっと引き寄せられれば彼の顔がすぐ近くにあって、私は目を伏せました。彼が何を考えているのか分かりませんでした。顔が近くて、それどころではありませんでした。こんなに近くにいたら私が思っている事が分かってしまうのではないでしょうか。私はそれほどに、緊張して、心臓が爆発しそうなくらいに早鐘を打っていました。 「どうなんだよ」 そう、聞いてくる彼は真剣そのものです。 彼の事をどう思っているのでしょうか、私はわかりません。ですが嫌いではないと言う事は、確かだと思います。 それでも、聞かれるとわかりませんでした。今までどんな難解な公式でさえといてきた私が、わかりませんでした。先生にも相手にされないくらいにそれなりの成績をとってきた私が、わかりませんでした。どうしてか、わかりません。こんな事は初めての事態で、頭は既に緊急警報を鳴らしていて思考するためにある脳内の空き要領が足りなくて思考回路はショート寸前で、パソコンならとっくにエラーが大量に発生している所でした。 「…楽しいです」 私はきっと真っ赤になっている私の顔を見られてしまうのが恥ずかしくてぎゅうと、彼に抱きつきました。後の事なんてどうにでもなると思いました。もうどうでもよくなりました。パソコンなど、電源から抜いてやりました。エラー音なんて無視してやりました。 本当に、期待なんてするのは馬鹿のすることでしょうか。 希望なんて持つのは私には早いのかもしれませんでした。 それでも、それ以上に期待させる彼はいじらしく、それと同時に掴めない存在でした。
(夢見た後で)
▲ 進まない進めないもどかしさのつもりだったが、急接近・急展開で作者爆発寸前。(20100111) |