さて、ピリカちゃんに布団まで用意してもらって、いよいよ夜も更けようとしていました。
 今日はやけに長い長い一日だったなあとごろごろと布団の中で寝返りを打ちながら思い返します。セイレーンがひょっと出てきて私の隣にちょこんと座り私に話しかけてきました。彼女は長いふわふわとした銀色のウエーブの髪の毛を耳にすうっとかけて、眠ろうとしている私を覗き込むように話しかけてきます。


 「我が主はお帰りにならないのかとわたくしはまだ思う」
 「セイレーン、あなたがなんと言おうが帰りません」
 「では、怒られるのは我が主だけと言うことだけで宜しいか。冷静に考えて、わたくしは成仏したくないぞ」
 「私の我侭です。でも良く考えて見てください。そもそも私が出て行くのを母は止めませんでした。何故だと思いますか」


 セイレーンは私の言葉にはっとしたように固まりました。セイレーンから見ても今回私が家を抜け出す事が出来たのは少し引っかかるものがあったのでしょう。もしや何かの魂胆があるのかもしれないし、何か母には策があり私を無理矢理にでも連れ戻せるような有利な要因をもっているのではないかと私は考えるのです。でも無ければ、母は私をやすやすと大事な時期にお外へほいほいと放り出すような真似事はしないと、なけなしの頭で考えました。
 セイレーンもその事に気づいたようで、私の顔色を少し見ると大体の事を把握したようでした。私は寝転んでいた体を半身だけ起き上がらせます。セイレーンは複雑な表情をして、首を傾げています。何故母がそのような行動をとったのか、理解できないといった様子でした。私にも理解できません。


 「何か策があるのだろうか?」
 「それは母に直接聞かない限り、分かりません。しかし何かの策があるような気がしてなりません」
 「分からない、わたくしは人間の心理が分からない故に我が主の心も分からない」




 「私は、かつて今日のように外へ遊びに行こうと思った事がありました。友人の誘いだったので断れないと言う事もありましたが、外へ遊びに行く約束を取り決めて宿泊施設に泊まるという大掛かりな計画を立てていました」
 「それがどうしたと言うので?」
 「時期に分かります、そして外へ遊びに行く当日私はこのボストンと共に待ち合わせ場所へと行ったのです。すると母はその途中で私が急病で熱を出して寝込んでいると友人たちにつげ、友人たちに先に電車に乗っていくように促したと言うのです。私が待ち合わせ場所につくと、案の定友人たちは既にいませんでした。そしてそのかわりに鬼のような形相の母が待っていたのです。私は恐ろしくて泣き崩れました」

 「要するに、策に嵌められたと」


 「そうです、その時母は私に何の干渉もしてくることはありませんでした。私も、母にだけは気づかれていないといい気になっていたのです。今回も前回と同じような雰囲気と母の持霊の匂いが微かに鼻につきます。おそらく何処からか私の状況を監視しているに違いないのです。だからきっとセイレーン、貴方も共犯としてそれ相応の罰を食らう事になるという覚悟をしておいたほうがいいと思います」


 「それが誠であると言うのか」
 「おそらく、そうでしょう」
 「ならばわたくし、鯛焼きはしばらく食べられないという刑になるかもしれぬ」


 セイレーンがものすごく真剣な形相で鯛焼きの話をし始めるものだから、私は思わずくすくすと笑ってしまいました。


 「わたくしは大真面目です」
 「わかっているから面白いのです」
 「馬鹿にすると言うのですか」
 「馬鹿にしてはいません、平和です」
 「我が主には敵わぬ」
 「主ですから」


 それでもこれは戦争です。見合いという名の不平等条約です。
 しかし篭城に追い込まれたら、篭城した城主や兵が助かる術は限りなくゼロに等しいという事を私は知っていました。私はなんて本当に浅はかなんだろうと思いながらもぼんやりとした意識の中でふとんがあったかいから大丈夫かな、と呑気に眠りにつこうとしているのでした。











(駆け引きの世界)
































もはや誰が首謀者か、黒幕か。(20100107)