風呂に入って、ほかほかとして上昇した体温と外の気温差がすこしひんやりと肌に冷たく感じました。ピリカちゃんが親切に用意してくれた浴衣に袖を通し、上に羽織をはおれば見事なまでに温かく防寒対策はばっちりだと思いましたが少し甘い考えだったようでした。肌がじかに空気に触れればひややかに冷たく、まだまだ寒いものだなあと思いました。


 北海道はなれてしまえば年中過ごしやすいとはよく言いますが、ふとした瞬間に寒さが襲ってきて油断など出来たものではありませんでした。肩を竦めて、手を浴衣の袖に入れ暖を逃がさぬように部屋へと逃げ帰ります。風呂上りはなんと寒いのだろうと思わざるを得ません。私は吐く息が白いのに一種の感動と感嘆を憶えながら、小走りに部屋への道を急いでいました。


 「ぶわ!」
 その結果として前を見て歩いていなかったので、角を曲がってきたホロホロ君に勢いよくぶつかる事になろうとは誰が思ったでしょう。


 「あ、痛たた、ごめんなさい!」
 私たちはどおんとぶつかって互いに仲良く尻餅をついてしまったのです。私は、じんじんと痛むお尻をさすりながら立ち上がってホロホロ君に手を貸します。


 「大丈夫でしたか?」
 ホロホロ君が手を取りながら答えます。「どうってことねェさ、尻餅くらい痛ててて…いや、痛くねェ!」
 「本当に大丈夫?」
 心配になって念を押しながら首を傾げれば「大丈夫だっ!」とニッとした笑顔で答えられたのでよかったと一安心して私もにこりと微笑みました。


 「お怪我はありませんか?」
 「そりゃ、こっちの台詞だぜ。大丈夫か?」
 「ええ、大丈夫です」
 目立った外傷はありません。


 「それならいーんだ。に怪我でもさせたらオレ、ピリカに何されるか分かんねェし」
 「あの可愛いピリカちゃんに限って、そんな大げさな」

 私は心底驚きました。ピリカちゃんはそんな酷い事をするようには見えません、ならばきっとこれはホロホロ君なりの『ジョーク』なのだと私は思いました。それにしても兄弟と言うのはこういう『ジョーク』も言えるほど仲の良いものだと思うととてもほほえましく見えてきます。兄弟姉妹が欲しいと思った事は幾度かありましたが、私の家にはコウノトリは来なかったのだろうと、その思想は思うだけにとどまり断じて人に言うことはありませんでした。もちろん、霊にも言うことはありませんでした。


 「お前はアイツの恐ろしさを知らねーからそんな事が言えるんだ」
 「まさか、ピリカちゃんはそんなに恐ろしい子じゃないですよ見たら分かります」
 「その通りよ、お兄ちゃん」
 「げっ! ピリカ!」


 ぴんと人差し指をホロホロ君に向けて、仁王像のごとく私の前へと出て彼女はホロホロ君に言います。


 「私をそんな鬼のような人格に仕立て上げないでよ!」
 「なんだと!」と、食い下がらないホロホロ君。「あの時の地獄の特訓は鬼だったじゃねーか」
 「地獄の特訓だもん、鬼っぽくなって当たり前じゃない」
 むう、っと怒ったように頬を膨らませるピリカちゃん。私にはこの子が鬼になった姿なんて鬼のコスプレをしている所くらいしか思い浮かばず、さぞかし可愛いんだろうなあとしか想像が出来ませんでした。うんうんと私が考えているうちに、徐々に言い合いは白熱してゆきます。



 「ったく、猫かぶんのだけは上手いよなピリカ」
 「猫じゃないってば!」


 私は止めに入るべきかと目に入らずに傍観するべきかしばらく悩んで、止めに入ろうと思いました。しかしどうやってこの言い合いを止められるのかは謎に包まれています。またしても私がうんうんと考えているうちに言い合いがますます白熱してきました。両者口角泡を飛ばすような所にまで発展しそうになった時に私は徐々に笑いがこみ上げてきました。二人とも驚いて私を振り返ります。


 「あ、ご、ごめんなさい…あまりにも仲が良いなあなんて思っていたらおかしくておかしくて」




 くすくすと私は一人、笑いが止まりません。
 呆けたような表情をして私を見ていた二人も、徐々に表情がほころんでケラケラと笑い始めました。












(既成概念を壊して)






























兄妹喧嘩を傍目で聞いているととても面白いと思う。(2010107)