「人様の家に来て自分の家の事も知らないほどの低脳がの人間だなんて思われる、まさしく滑稽で愚の極み大ポカ」セイレーンは私に向かって罵詈雑言を浴びせるように言葉をつむいでいきます。「貴方の一家、知名度も能力も高い」 「そうなのですか、セイレーン?」 「わたくしが何故貴方に憑いているかを一度良くお考えください」 「分かりません」 二つ返事で返答すればセイレーンは至極残念そうに眉をひそめました。「貴方は有能な家柄の箱入り娘だと言っているのです」 「またお世辞を言っても何も出ません、貴方の好きな鯛焼きも買ってません」 ピリカちゃんが夕飯の支度を始める為に私を先程の六畳間の和室へと残して出て行ってしまい私は特にやる事も無かったので白いボストンを畳の上におろして、それに抱きつくようにして座っていました。白いボストンは素材がよい素材の鞄なのかとても気持ちのよいさわり心地でついつい抱きつきたくなるような魔性の鞄でした。 「鯛焼きは欲しい……いやそうではなく、私は貴方の事を心配している」 「そうなのですか?」 「貴方は無知すぎる、稀有なほどに何も世の中の複雑さや汚さについて知らなさすぎる」 「だからと言って、調べようとすれば母はとても鬼のような形相で怒りますので逆らえません」 「わたくしの主人ながらいかに知能が足りないかが浮き彫りになってきたのでズバッと言わせて頂きますが、貴方自身どう思っていらっしゃるのですか。両親の事を抜きに考えてわたくしは貴方様にきちんとした相手を選んで欲しいと思っております。ここでのこのこと居候している場合ではありません、こんな所にいては御両親に勝手に見合いの相手から結婚相手から好き勝手に決められてしまうのではないですか」 「ええい、」私はふくれっつらをしてそっぽを向きました。 それ以上彼女の言うことを聞けませんでした。セイレーンのいう事はほとんどが正論だという事も分かっていましたが、それを素直に聞き入れられない自分に負けてしまったのです。私は言いかけた後に後悔しましたが、言ってしまったものは取り返しがつきません。 「でも荷物もまとめてきてしまいました、私が家出したとなればきっと母はカンカンになって怒っているでしょう。今更帰ったところでピシャリと門前払いを去れてお払い箱です。貴方も除霊されてお陀仏です」 「また貴方は物騒な事を」 セイレーンは眉間にしわを寄せました。そんな事をしているとシワになるよと言ったら零体だからそんな事は無い、と怒られてしまいました。セイレーンは少しむすう、としたまま言葉を続けます。「しかし、母上の力ともなれば娘を探すのなど容易いのでは?」 なんと、私はその可能性まで考えていませんでした。なんと自分の行為が浅はかなものだったかを少し思い知りました。 「三日間持ちこたえられるか疑問な所ですね」私はうんうんと唸りながら考えました。確かにそうです、母は私が凄いと尊敬していた母親代表のような母親なのです。私は母のおかげで迷子になった憶えもなければ、何不自由した憶えもありませんでした。遊びに行こうとしたらすぐに連れ戻された記憶すら、記憶に新しく刻まれています。しかしそれを考えると少しおかしな点がちらほらと出てきました。 「これは三日以内に連れ戻される」 セイレーンは私に、真剣な表情で訴えます。早めに帰って怒られてしまおうと言う魂胆です。自分の身がそれほどに可愛いのでしょう、しかし私はセイレーンは大好きですが見合いは大嫌いです。嫌悪感でいっぱいです。悪寒もします。背中にぞぞぞっとくるものがあります。 「されません、逃げ延びます。帰りません」 「必ず連れ戻される」 「セイレーン、貴方はそんなに成仏をしたいんですか」 「わたくしは、神だから成仏はしない」 「むう」 私は頬をふくらませました。セイレーンがフッと勝ち誇ったような冷笑を浮かべました。 「今日は遅い、明日にでも」 「帰りません、」こうなったら母に連れ戻されるまで放浪する事に決めました。「見合い合戦が収まるまでしばらく様子見です」 「全く、仕方の無い人でわたくしは骨が折れる」 セイレーンが話し合いによって折れた所で私はくすくすと笑いました。その後、丁度いいタイミングでホロホロ君が「メシ出来たぞ!」と呼びに来てくれたので私は畳から腰を上げて、襖をすうっと開けます。 「ほら、こっちだ。ついてきな」 「はい」 私はセイレーンと共にホロホロ君の後に続きながら、ひたひたと廊下を進んでいきました。
(未熟者の烙印)
▲ それはどこか、滑稽な風景。(20100107) |