「本当に私がお邪魔してもよろしいのでしょうか」
 「オレがいいっつってんだろ、話せばなんとかなるはずだぜ」
 「だといいのですが」


 私はホロホロ君のお家に突然ながら居候する事になってしまったわけですが、彼の家はとても広々とした家でした。人の家では、きょろきょろするとみっともなくてはしたないと母に教わりましたので私は少し心奪われつつある日本庭園のような庭にちらりと目を向けて様子を観察しました。ししおどしがあり、風格漂う雰囲気があり思わずしし脅しの音に聞き入ってしまうほどでした。


 ホロホロ君が玄関前から堂々と入っていくのについて私はおそるおそる彼の後に続きます。彼の家に来る途中で色々と話したりもしましたが、今の時期ご両親は大体が留守のようで妹さんと二人で暮らしているとの事です。私はそれでも申し訳ない事に変わりはなく、前を行くホロホロ君において行かれないように、靴をそろえて廊下をぱたぱたたと追いかけます。


 「お兄ちゃん、遅っそーい!」
 「わりぃ、わりぃ」


 妹さんでしょうか可愛らしい女の子の声が、ぱたぱたという足音と一緒に聞こえてきます。私には妹や弟がおらず、少しだけそういうものが憧れでした。妹がいるなんてなんて羨ましいのでしょう! 私は妹さんの声に気をとられており、いつの間にか前方で静止していたホロホロ君にどんとぶつかってしまいました。




 「っうぉう!」
 ホロホロ君が衝撃に耐え切れなかったのか驚いたので声を上げました。私もびっくりして声を上げれば、妹さんは私の存在に驚いて目を丸くしました。


 「わ、お兄ちゃんがこんな可愛くて小さい女の子連れてきて……ついに犯罪の一線を越えたのね! 最低!!」
 「いや、コレには色々訳があってな…」
 「いーやー! 言い訳なんて聞きたくない、お兄ちゃんのヘンターイ!」
 なんと言うことでしょう、会って間もなくとんでもない事になってしまいました。これでは堂々巡りなのでここは一旦、彼に私の拙い助け舟を出す事にします。


 「あ、あの!」
 ホロホロ君の後ろからひょこりと出て私は、勇気を出して妹さんに話しかける事にました。妹さんはホロホロ君に対しての表情とはうってかわって、私に対してにこやかに微笑んでくれました。とても可愛らしい妹さんです。ホロホロ君の話は聞く気は全く無いようですが私の話なら少しくらいは耳を貸してもらえそうでした。
 「なあに? ごめんね、家のお兄ちゃんが迷惑かけたでしょ」
 「いえ、私が路頭に迷ってる所を助けてくださったのです」
 「そうなの?」
 「はい、行く先が無いと言ったらそれなら家で面倒見てやるとおっしゃってくださいました」
 「お兄ちゃん、それホント?」訝しげな視線がホロホロ君に向きます。


 「最初っからそう言うつもりだったけどよ。ピリカ、お前聞こうともしてなかったろ!?」
 「私そんな話聞いてないもん」
 「まあ、そういうわけでしばらく面倒見てやってくれねェか」
 「もう、しょうがないわね」ピリカ、と呼ばれた妹さんがはあ、とため息をつきました。「でも条件が一つあるわ」


 「条件?」
 ホロホロ君が首を傾げました。
 「その子に手を出しちゃだめだからね! 私がきっちり面倒見るんだから。お兄ちゃんなんかに任せられませーん」
 「な!」
 「さ、こんな変態は置いといていきましょ」ピリカちゃんは私に歩み寄ると私の腕を掴んですたすたと廊下を進んでいきます。わたしもその歩調にあわせてぱたぱたとついていきます。後ろから、「変態じゃねェ!」と言う声が聞こえましたがピリカちゃんは何故か「聞こえ無―い」と言いながら歩調を緩める事無く進んでいきます。同じくらいの身長なので歩くのについていくのには全く疲れませんが、少しホロホロ君がかわいそうな気持ちになりました。


 「そういえば、名前なんて言うの?」
 「です」
 「? もしかして『』…ってあの家!?」
 「うーん、全国に『』が何人いるか分かりませんが私はです」
 「え、じゃあ『さん』ってこと? 信じられない…! なんでまた家なんかに?」
 「偶然ホロホロ君に会って、路頭に迷っている所を助けられたからです」
 「ええ!? まさか、お兄ちゃんったら全然こういうのに疎いんだから。この大変な時期なのに家も知らないのにさんに手を出して……」
 「大変な時期?」


 しばらく廊下を進んで、ちょうど廊下の突き当たりにある部屋の前でピリカちゃんは立ち止まりました。私も一緒に立ち止まり、ピリカちゃんの様子をうかがいます。


 「さん、知らないんですか?」急に真剣な表情で言われるものですから、私は少し面食らってしまいました。
 「?」


 正直に首をひねりながら疑問符を口にすれば、彼女は呆れたようにため息をつきました。どういうことでしょうか。すると痺れを切らしたかのようにセイレーンがひょっこりと位牌代わりの黒曜石のクロスペンダントから出てきました。彼女は至極呆れたような顔をして、首を振りながらため息をついています。私はそんなに問題発言をしてポカをやらかしてしまったのでしょうか。ピリカちゃんは、襖を開けて、部屋の中へと私を招きます。招きいれながら私に話の概要を続けてくれました。


 「かの有名なシャーマン一家、家のご令嬢が未来の旦那様を募集してるっていう話です」
 「あ、」思い当たる節がありました。私はそのために家出を決意して家出してきたのです。「通りで家族の者がみな鬼のような形相で殿方の写真を山の様に積み上げておられたのですね。なのに、私全て押し入れに…家も出てきてしまいましたし」
 「えええええ! 何してるんですか、ちょっと」
 「だ、だって、私凄く人見知りなもので…お見合いなどというものは本当に無理なんです」
 思い出しただけで吐き気がするほどのお見合い写真の山イメージを、ぶんぶんと頭を振って頭から追いだしました。お見合いのシーンと言えばドラマでしか見たことは無い私ですが、趣味は何ですかとかよく分からない質問ばかり繰り返していたのを思い出して私には到底無理な事だとまたぶんぶんと頭から追いだしました。


 「そんな、やって見なきゃわかんないじゃないですか! お見合いする前から何わがまま言ってるんですか、もう!」
 「でも、私はお見合いなんて嫌です。絶対に嫌です、無理です」
 「うん、乙女として気持ちは分かる」ピリカちゃんは畳にちょこんと正座した私の両手を握って心から同意するように言いました。そして次の瞬間には眉をハの字にしてしょんぼりと落ち込んだような表情に変わります。「でも、お家柄許してもらえないんでしょ?」


 「そうなのです、母は20には結婚をしろと鬼の形相でせがみますし、お見合い写真は日に日に山積みになっていくばかり」私は顔を伏せました。「私は今まで全くと言っていいほどに殿方との接触はありませんでした。ですから今の母の必死さが全く分からないのです。なぜそうも必死にの婿を探すのでしょうか、母の行動はとうに私の理解の範囲を超えてしまいました」
 「どうして? 結婚しないと子孫が残らないから、能力のある人と結婚するのは当たり前じゃないんですか?」
 「その、当たり前の事さえも教えてもらえずに育ってきたのです。母の言葉はもはや既に理不尽な理由にしか聞こえず、もやもやとした不安な気持ちでいっぱいです」
 「さん…、」ピリカちゃんは私をぎゅうと抱きしめました。突然の事に私は驚きましたが、彼女が私を安心させる為にしてくれている好意だという事がすぐに分かりました。「大丈夫! 取り合えずみんな嫌だったら家に来ればいいから、ね!」




 「ありがとう」


 私はピリカちゃんとはとても温かいひとなんだなあと思いました。












(理由が必要なら)






























きっとピリカちゃんはヒロインが義姉になったら嬉しいなと思っている。(20090107)