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後戻りはできない 先送りすらできない 残された道は 前へ進む道のみ 六．不可逆契約書徐々に日が落ち、すでにあたりは橙色の光に包まれつつある。 「あちらのほうに確か何件か宿屋があったはずじゃ」 「よし、じゃ行くぞ」 「おー！」 そんなわけで木々の合間を縫いながら、獣道を進む。やはり忍者と言うもの、運動神経は一般人の比ではない。 びゅんびゅんと風をきる音と、めまぐるしく通り過ぎていく木々の景色を楽しみながら姫は、ぼんやりとあの人のことを考える。 あの人のことを思い出すたびに過去の色々な想いがこんこんと湧き上がってきて、思わず目を伏せた。 もはや既に存在していない人のことを考えたところで、その人が生き返るわけでもない。 でも、思い出すだけという行為でこの傷が癒えるのならば。想いを馳せるのも悪くないかもしれない。 ひゅんひゅんと通り過ぎていく木々の群れの一貫性のない枝のつき方。それがまるで人間のように見えて身が竦んだ。 何処からでも監視できそうな鋭い瞳。 何処からでも襲撃できそうな敏腕さ。 まるでそれは何人たりとも敵わないような雰囲気すら醸し出しており、威圧感ともいえないような強靭なオーラを放っている。 今までに何人もの人を殺してきたような瞳。その血に染まりきった腕は今までに何人の人を殺してきたのだろうかと思えるほどに。 赤く赤く染まりきってしまったような、嘆かわしいことこの上ないと想いながらもそれは仕方ないと首を振る。 気配を殺しきれず、殺気を撒き散らしながら近付いてくる恐怖感が蘇ってくる。ゾッとして思わず身を竦める。 おそらく彼らは、目で人を殺せるほどに強くなっているのだろう。以前でさえ、あの実力を持っていたのだ。 姫は考える。 以前雇われていた忍は決して弱いわけではなかった。むしろ、強いと称される程度の忍たちだったはずだ。 それなのに、なぜ殺されてしまったかといえば、彼らが強かったからと言うのが理由なのだろう。 彼らもそう言っていた。だから、強くなければ殺されないのではないかと高をくくってしまっていた。 しかし、彼らはそうではなかった。なぜならシカマルの前に現れたという話をシカマルがしていたからである。 襲わない、と言うのはウソだったのだろうか。いや、嘘ではないと思う。 おそらく、もっと強い忍を雇ったという確証が奴らの中に渦巻いていたからシカマル達に接近したのだ。 しかし事実上、彼らの予想は外れていると思われる。そもそも、彼らは中忍の部隊長を筆頭としているのだ。 以前の部隊長のレベルはおそらく上忍。そしてその班編成からしても、班の全員が中忍以上の実力があったのは確実。 推測からして、奴が上忍以上のレベルをもっていたのだろうと考えれば、この班編成ではすぐにお陀仏だ。 こやつらで本当に大丈夫なのか、などという想いが姫の中で渦巻く。 姫からしてみれば、シカマルたちを信用したいという気持ちもうっすらとあるのだがしかしそれ以上に心配だった。 これ以上犠牲者を出したくはないという、精神的な恐怖感。大切な人が死んでいく絶望感。 そんな感情に苛まれてしまうのはよくないとは感じつつも、だんだんと不安に侵食される心は止められるはずもなく。 一刻一刻と時間が過ぎていく中で、彼女は深い眠りに落ちていった。 さて、シカマル一行はようやく今回の宿を小さくながらもその視界に捕えていた。 「アレじゃねーか？」 「そう、みたいですね」 そんなシカマルの一言に、一行はその建物の様子を確かめるように視る。 どうやら一見、敵の気配はなさそうである。しかし油断は禁物だった。 「ヒナタ、白眼であのあたりの様子を確認してくれねーか」 注意するに越したことはない、それがシカマルの意見だった。ヒナタはその言葉に頷くと、白眼を発動する。 幸いにも敵忍の気配はなく、比較的安全だということが確認された。 ヒナタは安堵のため息をつくと、異常のない事をシカマルに報告する。 「敵の気配は、ないみたいだよ」 「そうか、」シカマルはチョウジの方に目を向ける。「チョウジ、姫の様子は」 「寝ちゃったみたい」 器用に木の上を跳ぶようにぴょんぴょんと走りながら、彼らは器用に会話を続ける。 機の陰から僅かに見えつつある宿は、徐々にその形をあらわにしていた。 だんだんと形の判別がつくほどに近付いてきたので、その形を大きく視界に入れることができる。 近くで見れば見るほどに、なんとも豪華なつくりであることが徐々にわかってきた。 さすが一国の姫の選択する宿だけあり、普通の民宿のような宿ではなく立派な豪邸のような宿だ。 「なんというか、すげーな。ありゃ何だ、…城か？」 「さすがだねぇ」 シカマルが眉間にしわを寄せて、睨みつけるようにその建物を見上げる。 視界に小さく見えていたときには気がつかなかったのだが、建物に近くなるにつれてその豪邸のような宿は 巨大な城壁のようなものに囲まれており、まるでどこかの城のようなつくりとなっている。 こんなところに誰が止まるのかと想いながら、その宿と思しき建物の前にすたんと着地する。 後ろからチョウジとヒナタも着地。 目の前に着てよく視れば、おおよそ城壁の高さが二・三メートルと言ったところだろうか。 身長の二倍程度ありそうなその城壁にも、うっすらと奥のほうに見える中の創りにもその豪華さに驚かざるを得なかった。 しばらく四人は宿の前で立ち往生していたが、城壁の一部に呼び鈴のような神社の境内にありそうな鈴がついているのを見つけ 一行は、その鈴へと繋がっている紐を引っ張った。リンリンと爽快な音が周りに響く。 すると、宿の人間と思われる男の影が二つ目の前に現れた。 「ご宿泊ですか？」 「あー、そうっｽけど」 シカマルが話しかけてきた一人の男に対して曖昧に答えると、その男はにこやかな表情になって答える。 「こちらへどうぞ、受付をいたします」 そう言って、歩き始める男。シカマルは後ろの二人に目配せすると、その宿の男についていく。 城壁の内部は、見事な日本庭園となっていた。普通の宿の二倍ほどありそうなほどの敷地に、竹林なども存在している。 松などの縁起のよい植物はもちろんのこと、大きな湖に近いような池には、緋鯉が何十匹何百匹入るのではないか と思うほどに優雅に泳いでいた。 考えてみれば見るほどに、恐ろしい宿である。 ようやく受付へと辿り着くと、姫に気付いた宿の男が一瞬「おや？」と言う表情になる。そして次にはにこやかな表情に変わる。 「姫様の御付の方々ですね、一泊だけのご利用で宜しいでしょうか」 「はい、そうです」 ヒナタが遠慮深げに答えて頷く。どうやら姫はこの宿の常連らしい。 「いつもご利用ありがとうございます、いつものお部屋を二つご用意させていただきます」 そんなことを言いながら、宿の男はにこやかに接客を続ける。 どうやら部屋は二人部屋のようで、恐らく宿側の配慮により男女別に分けてくれるようだった。 「それでは、お部屋までご案内いたします」 男はこちらです、と言いながら一行を先導していく。 一行は、その言葉にしたがって部屋へと向かっていった。 ▲ ●あとがき。以前の連載を書いてから約半年が過ぎ去りました。待たせに待たせた６話です。すいませんでした。6話書いていて「詰んだ！」としばらく放置していたらこういうことにな（以下略（２００９１０２５） ●おそがき。ファイル紛失事件とパソコンの故障により更新がいろいろと遅れているという謎の事態でした…すいませんでした。この連載のことを覚えていらっしゃる方はいるのだろうか。…これからも長い目で見てあげてください。（２０１０１２２９） |