要らないもの認められていないもの
   それならいっそ 無いほうがいい
   我儘と哂うなら 哂いなさい
   下賎の民の為す事などに
   私は興味など無いのだから


  四.非公式所有物




  「それじゃ、失礼します」
  「頼んだぞー」
  適当な挨拶を済ませ、家臣が姫の部屋へと三人を案内する。
  木製の廊下には門と同じく豪華な装飾が所々に見られ、やはりここは豪華な城なんだということを嫌でも実感させられる。
  よく見れば家臣の服装も絹製で、細やかで繊細な刺繍が入っていることから、やはりこの着物も高いのだろうという予想を
  安易にたてることができた。それにしてもこの城、今まで任務で赴いた城の中で一・二を争う豪華さである。
  さて、先程あんな事を行って出て行った彼女を追いかけるのは、三人にとって少し気が引けたのだが、
  そんな事を言っていては護衛どころではないうえに、そもそもそんなことをしていては任務にならない。
  ――めんどくせー、何でこんな任務引き受けちまったんだオレ。でも仕方ねーよな。
  気を奮い立たせて、彼女の元へと向かう家臣と三人は行きに通ってきた長い長い廊下を歩く。
  廊下の突き当たりで右に曲がると、家臣が急に立ち止まったのでみんなでドンドンと彼にぶつかった。
  「おわっ」
  と、奇妙な悲鳴を出して倒れそうになるのをこらえた家臣は、後ろを振り返り、「危ないじゃないですかー」と膨れる。
  「あーすんません」「ごめんなさい」などと口々に謝ると、「まあ、気をつけてくださいよー」と言って障子に呼びかけた。
  正しく言えば、障子越しに姫様に話しかけているのだが、その光景は端から見ると障子に話しかけているように見える。
  そう思うと少しばかり、その動作は滑稽だった。
  「姫様―、出立の準備が整いましたよー」
  出てきてくださーい、という声の途中で、バシンと障子が開いた。

  「待ちくたびれたわ」
  嫌味たらしく眉間にしわを寄せる彼女だが、その仕草さえも優雅だと思えてしまうのは彼女が姫様たるが故である。
  待ちくたびれたという言葉から、どうやら護衛をされることを渋々ながら了承したということがうかがえた。
  シカマルは、ふぅと短くため息のようなものをつくと、門へと向かって動き始めた家臣に続いた。姫もその隣を歩く。
  そのまま長い廊下を沈黙を保ちながら歩き門の前までたどり着くと、家臣は扉を空けて「いってらっしゃいませ」と一礼した。
  「うむ、行って来る」と、姫。
  「どうか、ご無事で」と、家臣。「くれぐれも暴漢にはお気をつけくださいませ」

  「ボク達がついてるから大丈夫!」
  「ま、そのためにオレらがいるわけだしな」
  「心配しなくても、大丈夫です…!」
  自身ありげに小隊の三人が言うと、家臣は安心したような柔和な笑みを浮かべた。
  「はい、皆様もお気をつけて行ってらっしゃいませ!」
  家臣の笑顔に見送られながら、四人そろって門扉をくぐる。




  「で、城はどっちだ」
  「艮(うしとら)の方向じゃ」
  門を出たところで、シカマルが姫に問いかけると彼女は二つ返事に答えを返す。
  そして、訪れる沈黙。一歩、また一歩とシカマルと姫、チョウジとヒナタが二列に並んで歩いていく。
  道幅は人が五人は並んで通れるほどに広く、適度に舗装されている道中はほとんど雑草などは生えていなかった。
  車輪の跡も多々見受けられることから、どうやらここは人通りが適度にあるような場所だということがわかる。
  「で、このまま真っ直ぐで当ってるんだよな」
  「そうじゃ」
  姫との会話は少なく、あったとしても、まだまだ他人行儀さが拭いきれない会話しかしていない。
  会話を続けようとする意志さえも感じられないようなそっけない返事にシカマルはまあ仕方がないかと肩を落とす。
  何がどういう理由でこのような態度をとっているのかが分からないので、対応の仕方が分からないのだ。
  つくづく、めんどくせー女だと思いつつ彼は彼女をちらりと観察してみる。
  さすが一国の姫とぃったところだろうか、やはり立居振舞いにはどことなく気品が漂っており、庶民の服装をしていようとも
  それは拭い去れないものとなって彼女の周りを包んでいる。
  これで変装したつもりかと素人に言ったところで仕方ないので、言うことはしないものの…気にはなるわけで。
  何考えてるんだ、オレ。と思いながらシカマルは頭を掻いた。

  空には羊によく似た雲がふわふわと浮いていた。

  一行はのんびりとした足取りで城下町に入る。城下町には様々な種類の商店が並び、そのどれもが多くの客で賑わっていた。
  呉服屋、雑貨屋、団子屋、甘味処に老若男女がごった返している。道が通れないほどではないが、人通りは多かった。
  「すごい人だな、こりゃ」
  シカマルが人ごみに顔をしかめた。姫が少し自慢げに胸を張って答える。
  「この城下町はこのあたりで一番賑わっておるからのう。まあ、有名な老舗が多いというのが一つの理由じゃ」
  「へえ…通りでこんなに人がごった返してるわけか」
  周りを見渡しても人・人・人…。
  気を抜いていたら人にぶつかりそうな、そんな混雑を見せている城下町のメインストリートともいえるこの通り。
  何もかもが目新しく、魅力的で、目移りしてしまうような通りになっている。
  そんな通りを、流行に敏感な住人が見落とすはずがない。……流行るはずである。
  「あそこの甘味処、ボク知ってるよー」チョウジが6人ほどの列ができている店をひとさし指で示す。
  「あ、わたしあそこの店知ってます…!」ヒナタも女性客で賑わう雑貨屋を指している。
  どうやら二人とも知っている店があったようで、凄いと言いながら目を輝かせている。
  どうするか、とシカマルと姫がちょうど顔を見合せる。と、彼らの腕に軽い衝撃。

  「シカマル君、私、さんとあそこのお店見てきます!」
  「ねえ、シカマル〜。あそこの甘味処行こうよ〜!」
  と、チョウジはシカマルの腕を、ヒナタは姫の腕を掴んで各々言いたいことを言って店に行く気満々だった。 

  「ヒナター、しっかりやれよー」シカマルがチョウジに引っ張られながら言う。
  「はい! ――行きましょう、さん!」
  シカマルに返事を返し、嬉々とした表情のヒナタに腕をひかれて「おおう、そうじゃな」と答えながら姫は苦笑する。
  同世代の遊び相手が殆どいない姫にとって、町を同世代の同性と自由にうろうろするのは初めてのこと。
  同世代の女の子(つまり同性なのだが)と、どう接していいかどうかが全く分からないというのが本音だった。
  その上、話のタネでもある、流行の店がどこだとか、どういう物が流行っているのかがさっぱり分からないのである。
  服は貰ったものばかり着ているし、簪だって貰ったものしかつけていない。そもそも、服や簪を自分で選ぶという習慣がない。
  相手方も、流行しているか否かは選んで贈っているようだが、そのあたりが疎い姫にとってあまり意味は成さないようである。
  「ほら、ここです。里で売ってたファッション雑誌に載ってたんですよ!」
  でも行けないかもってあきらめてたので…、近くを通って行かなきゃって思って。と話すヒナタ。
  俯いて頬を染めながらもじもじしている彼女を見ながら、姫は看板を見上げる。
  「ほう、そうか…やはり有名なのじゃな…」
  「今、すごく流行ってるんですよ! ここの簪とかピンとか持ってると恋愛成就につながるって噂で」
  「ふうむ…、ということは誰か好きなやつでもおるのか?」
  「うわぁ! あ、もう、そういうことは暗黙の了解で…!」
  「今甘味処に行っているやつらではないんじゃな?」
  「…う、うん、そうだけど…どうしてわかったの?」
  「カマかけただけじゃ」
  「え?」
  「ちょっと、カマかけてたらひょいひょい引っかかるから面白くなってしまったのじゃ。すまんな」
  「…!」口元を押さえて真っ赤になるヒナタ。「あ、じゃあさんは、す、好きな人とかいるんですか?」
  「そうじゃな、まあ…妾は政略結婚じゃから、あまりそういうのはつくらないように心掛けている」
  「そう、ですか…。でも好きなら好きって言わなきゃ駄目ですよ」
  ふふふ、と姫はその言葉を受け流したが、無意識のうちに心で復唱された。

  さて、店の前で目新しいものばかり並ぶ店内を見渡せば、可愛らしい簪や豪華な櫛などが所狭しと並んでいる。
  小さな花が無造作に散らばっているような、そんな雰囲気の簪が目に留まる。
  薄桃色を基調に、金色で川の流れが表現されており女の子らしい造形をしていた。形はほかのものとは大差ない。
  デザインがなんとなく好きだと思いながら、姫がその簪に心奪われていると、ヒナタが可愛らしいピンを二つ持ってきた。
  「さん。…私、どっちを買おうか迷っているんですけれど、どっちがいいと思いますか?」
  「うーん、そうじゃな…」
  ひとつはコスモスをモチーフにしたような銀製のピンク色の花がついているピン。
  そしてもうひとつは、すずらんをモチーフにしたような銀製の白い花がついているピン。
  どちらも大人しそうな性格の彼女に合っているので、回答に詰まったが、どちらかと言えばすずらんのほうが好きなので
  姫はすずらんのほうを指さした。どこかで毒があるとかないとか聞いた気がするが、ここであえて言う必要はないだろう。
  「それじゃあ、私これ買ってきます!」そしてヒナタはピンを会計へと持っていく。
  …どっちも会計へと持っていった気がする。思い違いだろうかと思っているとそうではないらしい。
  ヒナタが戻ってきて、姫に左手を差し出している。その手には可愛らしい紙袋。どうやらこの店のもののようだ。
  「…はい、これはさんに」
  「あ、ありがとう」姫は紙袋を受け取る。
  「えっと、…開けてみてください」
  中を見るとすずらんのピンがこちらを覗いていた。
  「これは…いいのか?」
  「はい! もともとさんにあげようと思っての事でしたし…私はこっちを買いましたから」
  ヒナタの手には紙袋があり、どうやら先程のコスモスのピンを買ったことが見て取れた。
  と、姫は今までの仏頂面を崩してほほ笑む。

  「ありがとう」とお礼を言うと「どういたしまして!」と満面の笑みが返ってきた。















あとがき。
  よーく分からない話になりました。とりあえず姫がぐだぐだ話すのは次の回。
   今回は、可愛いヒナタちゃんがかけたのでよしとします。もう何も言うまい。あれ、仲悪かったんじゃ…デレ期ですかね?
   …そして今回は多いんだか少ないんだか微妙な分量。4000文字ぐらい? うーむとりあえずなんとか4話です。
   これからもどんでん返しと伏線と伏線回収目指して頑張ります。(←
   2009.02.25