※一期ハルトきゅんがエルエルフを乗っ取ったあたりのはなし ひと月があっという間にすぎていく、そんな移り変わりをさみしいと思いはじめたがそれの積み重なりはとてもあっという間であろうことかここに来てすでに一年間が過ぎ去ろうとしている。ジオールは平和だ。 彼が来たのは、きっと偶然なんかではなくある程度前からきっと決まっていたのだ。それでも、平和ボケしはじめた私の中に、それは確実に変革をもたらす風穴を開けた。 あっさりと捕まえた彼は、案外抵抗がなかった。どうして?という疑問も、次の瞬間にはなくなることを、まだわたしは知らなかった。自分より背の一回り高い少年を壁に押し付けている図はすこし滑稽であったが、しかし彼の反応はあまりにも薄く、そしてうっすらと怯えている。(なぜ? どうして?)いつもならば高圧的に食ってかかられるはずだ。(もしかして、彼はいつものエルエルフではない?)まだわからない。だって紛れもなく目の前の銀髪はエルエルフだ。こんな綺麗な人をわたしはあまり知らない。ぎり、と歯を食いしばり彼に詰め寄る。 「エルエルフ、どうして? 答えて」 「……? エルエルフって誰?…どうして…こいつのこと…」 相手が不安げな瞳でこちらを見る。こんな、こんな弱気な男がかつて肩を並べた男だったろうか? 揺れる瞳が、わたしをうつして、そして彼の腕がわたしの頬に触れる。長いまつ毛が揺れる。そこで訝しげに彼を見つめていたわたしははたと気づいた。自分が失敗した、ということに。全身を悪寒が襲う。これはエルエルフだがエルエルフではない。確信に変わったそれはわたしを不安にさせた。と呼ぶ彼は誰だ、わたしの本当の名前を呼ぶ彼は誰だ…? 「ごめんね、変な事聞いたよね…ねぇ、あなた、誰? 」 首を傾げて困ったように微笑むと彼も困ったように微笑んだ。あのエルエルフが笑っている。この表情筋の豊かな輩はやっぱりエルエルフではないが、それでも好感はもてた。変な感覚。まるで知り合いが中身だけすっぽり入れ替わってしまったみたい。 「ハルト。えっと…この姿じゃに信じてもらえないかもしれないけど、同じクラスの時縞ハルトだよ」 「えっと、…どうして、あなたが…この姿に…?」 がん、と、距離をつめる。おでこがひっつくかひっつかないかという距離なのにエルエルフときたらとても綺麗だ。怯えて眉をしかめるエルエルフの表情はなんだか見ていて新鮮ですこしイタズラしてやりたい気持ちにかられる。ハルトには悪いけど。「わかんないよね…」苦笑する。 「ちょ、! うわっ…待って、顔が近…!」 「……ねぇハルト、あなたがこの姿でわたしに会ってからの事は誰にも言わないって約束して。言ったらわたしはもうあなたの友達ではいられないから」 「…」 動揺する彼に追い打ちをかけるかのように、「答えはハイかイエスでしかうけつけないわ」といえば、静かに首を縦に振った。つまりは肯定。でもきっと彼はことの重要性をわかってはいないのだろう。分かってもらっても困るのだ、これで最善である。しかしそれにしても。 「ねぇ、あなたどうやってその姿に? まさか身体を乗っ取ったわけじゃないだろうけど…」ぺたぺたと胸筋をさわりはじめたわたしを彼はわたしの手首を掴んで諌めた。 「や、なんていうかそんな感じなんだけど…ハハハ…」 「…えっ」 「えっと…」 なんていうか、成り行きで、こうなっちゃって…。と説明する彼に溜息をついた。本当にハルトは面倒なことに巻き込まれてくれる。そのくせ本人に全くその意思がないのだからその辺りがもうすでに圧倒的に危機感が足りなかった。真っ先に後先考えず突っ込んでいくタイプ。ほんとこれだ。 「バカハルトくん、ちょっとだけ、ちょっとだけ黙ってこうさせて」 「うん」 わたしはぎゅっと彼を抱き締める。すう、と見た目はエルエルフの彼の胸に顔を埋めれば、やはり懐かしい彼の匂いがするのだ。ああ、こんな事でしか彼を抱き締められない、臆病なわたし。涙が少しだけ浮かんで、ぽろりとこぼれた。 「何があったかとかそういうの、聞かないでいてくれるとこ、嫌いじゃないよ」 |