※Re:ハマトラ終了後のヒロインとアートとノーウェア後編




 「あっ、そうね、一つ報告しなきゃいけないことがあって。思い出したわ。わたしができた理由、わたしが存在し続ける理由。在りつづけなければならないが故のわたしであるための理由。ま、きっとあなたにはわからないでしょうね、ナイス君。でもいいの、きっとわたしにとってモラルという存在を思い出すことも、スキルを思い出すことも、はじめちゃんのことを元々知っていたことも、そしてみんなのことを、ずっとモニターの向こう側に見ていたことも知ったところでそこまで重要ではなかった。ただ一つ重要だったことは、そうね…わたしがとりとめもない一人の人間でありミニマムホルダーであったというだけの事実。両親が通常以上の国家機密であり国によって殺された事実。両親そのものの存在が秘匿されるべき存在。存在そのものの秘匿って、ナイス君みたいに自由を手に入れられるわけでもなく、存在を消されるほどの秘匿って、どれだけわたしの両親は問題を抱えていたのかしら。ここ何か月か、消息を絶っていたわたしが知ったことはあまりにも膨大すぎてわたしの記憶量がもうパンパンだわ…ふぁ、もう寝ずに作業して幾日たったかしら。政府の情報機関もチョロいもんね、何か月かハッキングで海外サーバ経由しまくってIPアドレスなんてわかんないようにウイルス仕込みまくって、パスワード防衛合戦しまくってるうちにいくつマイエンジェルたちをおじゃんにしたか……息絶えていったわたしのマイエンジェルたちの大破された本体のこと、考えるだけでご愁傷様ってかんじ。とってもかわいそうだわ。今度埋めてお葬式してあげなきゃ。でも今はとっても眠いわ、おやすみなさい」
 うつらうつらとしながらすでに睡眠体制に入るの肩をつかんでナイスは彼女の睡魔を拭い去る。まだうつらうつらする彼女だが、ナイスはどん、と彼女を壁際に押し付けた。わぁナイス君強引、なんて声が上がったがナイスにとってそんなことかまってられる問題ではない。

 「…おい。黙って聞いてりゃ、お前適当に会話に爆弾しこみながら一方的に俺に投げつけてよこしてんじゃねーよ。ホント、勝手な奴だな」
 「そうね、そうかもしれないわね」
 「ばぁーか、『そうかもしれない』じゃなくて実際そうなんだよ! なんでこうも天才って馬鹿ばっかなんだろうな」
 「その言葉、そのままお返しするわ。自分のことを言っているの? どちらにせよナイス君に言われたくない一言ね、そんな風に言われるのは少し心外だわ」
 「…はーっ、たくよぉ。まあ、そんな事はどうでもいいんだけどさ。お前が無事で割とアートもレシオもバースデイも、それから不服なことにはじめちゃんも、みんな喜んでんだよ。わけわかんねぇよな。ちょっとまえに知り合っただけの奴のことがこんなにも気になるって。よくわかんないうちに人の心の隙間にずけずけ入り込んでおいてそのくせ入り込んだくせに何も問題を解決なんてしねーかんじでふっと消えるようにいなくなる。独りよがりに独断で動いているように見えて、裏でこそこそ俺達のために俺より速い処理速度で動いてやがる。俺が機械苦手だって訳じゃないけどさ、お前のそれはやっぱ抜きんでてるわ。スパイとかも軽くこなしてそうな、神出鬼没で行動の原理がまったく理解できないお前が、俺は全然気に食わねーし食えねぇ奴だなって思うけどさ。他の奴よりたぶん、お前のこと気にしてると思うわ。気づいたら調べてるんだよな、調べられない謎を探求する好奇心ってやつを刺激する何かをお前は持ってんだろうと思うんだけどまったく解決の糸口も出てこない。それが逆に探求心をそそるんだろうな、特に俺達みたいな奴の」
 ああ、とそこでナイスは懐から古びた手帳のようなものを取り出す。
 「そういやぁ、さ。俺アンタに渡さなきゃいけないものがあるんだったわ、これ」
 「……モラルから取り返したのね」
 はそれに見覚えがあるらしく、ぽんとそれを受け取った。

 「お前もやっぱ会ってたか」
 「そうね、会っていたわ。いつだったかしら、アートのとこで以来受けてた時だから、あなたたちのところからいなくなるちょっと前ね」
 淡々と答える。「はぁ!? なんでちゃんもそんな危険な奴と会っちゃってるの!?」とバースデイから声が上がるが彼女は続ける。
 「それを見つけたときに、うっかり拉致されて拷問されたんだけど」 はぁ!? と、また声がどこからか上がるが彼女は淡々と答える。「そうね、アイツ重要なこといっぱい言ってたわ。今になって考えると割と重要なヒントだったわね。まあ何にせよアイツに世話になってたのは事実だから感謝はしてるけど礼をする気にはあまりなれないわ」
 うーん。と彼女は少し考えて言う。
 「そうね、なにか選んで礼をするなら、墓でも立ててやろうかしら。趣味がとっても悪いやつ」
 「いーんじゃねーの? お前がそう思うんなら弔ってやれよ、お前なりにけじめつけるってのもアリだと思うぜ」
 「わかったわ、そうする」


 「ちょ、俺にもわかるようにもう一度説明してくんね?」
 バースデイは俺、置いてきぼりにされた感否めねーわ、と言いながらナイスとを視線で問い詰めた。
 ムラサキがそれに同感だ。と頷く。アートは苦笑して、僕もだ、と同意した。



(20141223)正しい笑顔のつくりかた