どっちでもよかったのかもしれない。いいや、どっちでもよかったんだ。単純に彼女は、俺と同じだった。いや同じではなかった。同じようでいて結局のところ違う。人間だから当たり前だ。アイツは、本当はファクルタースに通っていた。いや、通っていたというよりはずっとモルモットだったのだ。預かったアルバムは、彼女のカルテのようでもあり、それでいて彼女の全てと言っていいものが記されていた。もともと色素の薄い顔立ちだとは思ってはいたが、栗色の髪のほうが地毛らしい。とちゅうからそれが白銀交じりの髪色になるのは、おそらくストレス。これと同時に、彼女の記憶は消えていったのか。 淡々と記録される写真と、実験の結果。楽しそうに笑う写真がすべて詰まったそれは、おそらく彼女の両親のものかもしれない。もしくは、あの気持ち悪い考えの男のものだ。ぞわりと身の毛がよだつ。これが真実だと信じるしかないのだろうか。 写真の中の彼女は、笑っていた。 自分はこんな彼女の顔を一度でも見たことがあっただろうか。否、ない。俺はぼんやりとアルバムをパラパラとめくりながら思った。 「笑ってりゃカワイー顔してんじゃん、アイツ」 まあ、あのモラルまで妄信的じゃないにしろ、彼女は世間一般的に見て美少女だ。かわいいと言えばはじめが一番に思い付くが、それとは違った、まるでガラス細工の人形であるかのように繊細ですべてが芸術品で、別次元の人間のような。妄信的な信者がつくのもわからない訳ではない。きっとああいう奴が教祖とかやるんだろうな。まあアイツは性格的に無理だろうけど。 「ったく、面倒ばっかかけさせやがって。どこにいるんだよ、」 最後にアイツは言っていた。 「私は愛していた!! のことを!」 そして彼は死んだ。彼女も消えたままだった。その代わりにアートは、戻ってきた。 |