「アウトサイダーの証拠、消炭になったのね。まぁわたしにとっては、消炭になろうとわたし自身が時に証拠になりうるからあんまり関係はないかもしれないけど、やっぱり物証がないと世間様はダメダメだもんね。みんなが記憶力よくなれば、万事解決なのにね」
 画面の一つで、ワーイ・ピー、と流れるCMを見ながら、これはCMでごまかせるものなのだろうか? と首を傾げつつも調べを進めればどうやら上が一枚噛んでいるらしい。機関にいる内通者のみーくんからの情報だ。流れてくる情報は確実。それでいて正確。

 「…僕が話す前に、君は全部把握してるみたいだ」
 「それでもアートの情報は必要だよ。わたしの推理が100%あっていたとしても、あなたがいなきゃ物証も指紋鑑定も、できないんだから。わたしの足が、あなただよ、アート警視」
 「お褒めに預かり光栄ですよ、天才女子高生ハッカーのさん」
 画面のCMをチラりと見ながら、アートはふぅ、とため息をついた。足音が近づいてきていたが、アートがわたしのうしろからぎゅうと抱きついてきたことによら足音が消える。そのまま隣にぺたん、と座ったアートはまるで猫のようにわたしにすり寄って来た。パソコンのキーを打つ手を止めず、アートの鼻に唇をおとす。彼はくすぐったそうに目を細めた。そこではたと気づく。

 「そういえば、ほら」
 「なんだい?」と言うアートにわたしは重箱の一段を渡す。「これは…?」
 「特製サンドイッチ。カツサンド、ハムサンド、たまごサンドエトセトラエトセトラ…女子高生のお手製弁当よ、ありがたく受け取るといいわ。今日は非番でしょ、ゆっくりここで食べながらわたしの戯言に少し付き合って。サンドイッチだから手は煩わせないわ。栄養食と変わらないでしょう?」
 わたしもおやすみだし、と付け加える。

 「アート、こないだから起こってるコンビニの連続男女中学生強盗未遂事件。単独での行動なんだよね? 映像から手慣れてない様子をみると計画性のない犯行とみて間違いはないかな。可能性はいくつもありすぎて困ったちゃんだけど、ここ2、3日で変化のあったこと、わたしも調べてきたわ」
 「というと、」
 アートがとたんに仕事スイッチが入る。それでも抱きついている腕は緩めない。

 「ほらみて、アート」ぽちぽち、と画面のスクリーンショットをスライドさせながらアートに見せる。チカラが欲しいか。と問われた画面のスクリーンショットは、彼の目を見開かせた。
 「、どこでそれを…?!」
 「ふふ、きっと天才のナイス君も突き止めてる頃だと思うわ。天才のわたしにこんな箱でかなうとおもったのかしら。でもアート、聞いて? わたしにも出所のわからない情報が少しあってちょっと時間がかかりそうなの。相手も割とやり手ね、わたしも本気だしてやらなきゃ尻尾つかまれちゃいそう。気を付けてるけど、危なくなったら手を引くわ」
 それでね、ええと、これだったわ。と画面を切り替える。
 「実際のところ例の拳銃騒動についてはもういくつか絞り込めているけど、気になるのはこれ」ぽちぽちと動画を再生する。「声が聞こえない?」
 「えっと…はこういうほうがタイプかい?」
 「確かにカッコイイけどこれは偽物だと思うわ、それより直接声が聞こえないかしら、力が欲しいか…って」
 「…いや、僕には…」
 「そう、まあいいわ。それでね、少しわたしは知ってしまったのだけれど、不覚にも証拠を現場に置き忘れてしまってね。あなたに警察で調べてほしいことがあるんだけど、ちょっといいかしら。危なくなったら手を引くこと。これだけは約束して。じゃあ話すわ」わたしはぽりぽりと手元にあったプリッツをかじる。アートも少し観念した様子で、わたしのお手製弁当に手をかけた。「今回の事件とはあまり関係のない、わたしと学園との関係に準じたわたしの過去についてなんだけど」
 ぴくり、とアートが肩を震わせる。「そうね、あなたしはちょっとショックが大きいかもしれないわ。別に、何とも思わないのかもしれないけれどね」



(20141207)砂糖漬けのメランコリー