※3話番外編 ちょいグロ かは、と口から血液がこぼれる。いまので内臓が損傷したのだろうか。拳銃から黒煙があがっている。その場所がとても痛い。殺されるのだろうか? わたしも、脳をくりぬかれる? 後天的だとしても先天的だとしても、結果としてわたしは知りすぎた。遅かれ早かれ、きっと殺される未来は変わらないのだ。過去はかわらないままかもしれない、でもわからないことが多すぎた。わたしのことを調べてもなにもでてこない。情報屋も知らない。彼が全力を出してもわからない、わたしの事実とは一体なんなのだろうか。それでも目の前の男がわたしのことを知っているのは事実で、その事実を知るためにはやはりこうしてわざと捕まってやる必要があった。どれだけ自白剤を飲まされようが、何をされようが、口を割らない自信はあった。身体にしみこんでいる、クラックの技術もなにもかもどこで覚えたのかなんてわからない。なにもしなくても成績は上の上だし、記憶力も異常だ。わたしは、何者だ? 「、私のかわいいかわいいお人形」 先ほどから彼の尋問によってわたしの身体はずたずただった。道端を歩いていたはずが、いつの間にか倉庫のような場所に連れてこられていて、わたしはすこし身構える。目の前の男は誰だ。見覚えのない銀髪に、吐き気がする。見覚えがない、でもどこかであったことのあるような、昔どこかで、会ったような。 「あなたは誰? 何のためにわたしを連れてきたの」 「君の過去を知る者、とだけ名乗っておこうかな」 「そう、じゃああなたが」 うっすらとおぼろげに思い出した記憶の中に留まっていた彼は向かいの椅子から立ち上がると腕を広げながらわたしに近づいてくる。わたしには避けることも逃げることもできない。なぜなら椅子に両手両足を縛られているからだ。何もかもお見通しってやつだ。それでいてわたしに血を流させるなんて、頭がわるいのか。ナイフ状にして腕と足のロープを切断すれば、彼はくつくつと笑った。計算通りなのだ。きっと彼の中では。 「君のミニマムは大変面白い。私は君のミニマムが、とても好きだ」彼の指はつう、とわたしの頬をつたう。「もちろん、君自身の能力値も好きだ。とっても興味深い。まるでスパイ映画に出てくるような美しい容姿、誰にでも化けられるような変装技術、高い運動神経、そしてクラックの才能、さらにフォトグラフィックメモリーをもつ君は学園随一の研究対象だった。君は私のかわいいお人形だ」 ひとふさ、彼はわたしの髪をすくい「綺麗な髪だ」とつぶやいた。「私と、同じ色の美しい髪」 「…学園随一……?」 わたしは顔をしかめた。どういうことだ。 「君は私だけのお人形だよ、。誰にも渡したりなんてしない、誰にも触れさせない。私だけの実験から実証された結果から最大限に引き出した実力は、秘匿された存在であるナイス君に匹敵する。だから君の記憶は消された。君の中の私の記憶も、学園の記憶も、学園にいた記憶も、君のことは調べられないようになっている。君は隠されなければならなかった。だから隠されている。それだけの話だよ。ああ、でもだからといって、私の愛がないわけじゃあないんだ。誤解はしないで、君が一番かわいいお人形なのだからね」 「……アート警視の様子がおかしいのはあなたのせいね。妙にカリカリしてるわ、あんまり刺激しないで」 「、」ちゅ、というリップ音が聞こえて手首にチリ、と痛みがはしる。「君を愛してるよ、君の全てを、君のミニマムを。君がこわれてしまうまえに、またもう一度迎えに来るよ」 身の毛がよだつ。どろどろしたものが這い上がってくるような、そんな感覚。今までのだれよりも粘着質でいて、それでいて、何か。 ぐらりと視界が揺れる。頭が痛い。何か思い出しそうなズキズキとした頭痛。ああ、頭が、……ああ、気持ち悪い。 彼の何かささやく声を最後に、意識が遠のいていく。 |