「『、あなたが信じるも信じないも、あなたの自由よ。私があなたの母親。訳あって素性は隠しているけれど、あなたの記憶のない部分はすべて私がカギを持っている。実家の私の部屋のクローゼットにある鍵のかかった棚をあけてみなさい。そこにあなたの過去があるわ。開けるも開けないもあなたの自由。あなたが知りたいと思うのなら開けなさい。知りたくないと思うのなら閉じなさい』」

 一度も連絡を取ったことがない電話番号から連絡がきた。音声を変換した様な機械のような声で、何の感情もないような、抑揚もないような声でそれは言った。本当なのかは分からない。わたしはいま部屋の前に立っている。ハロー、わたし。いまあなたの後ろにいるの。

 鍵穴をピッキングし、カチャリ、と音がする。細い針金を抜いて、そしてそのわりと大きめの棚を開ければなんてことはない、アルバムらしきものと、そして日記が一冊。それから鍵が入っていた。なんの鍵かはわからない。わたしは、積もるホコリをふうっと息を吐いて払い、アルバムを開く。幼いころのわたし、白い病棟服に身を包んだわたし…まだ、黒い髪だったころの、わたし? これがわたし? そうだ、すべてわたしだったのだ。

 これは、
 これは、なんだ…

 ずき、と頭が痛む。フラッシュバックして、記憶のようなものが少しだけ蘇る。

 『待て、……』
 『……………で………くの………だ』
 白衣の男に手をひかれている。わたしよりも何倍も大きな男に、手をひかれて、わたしは歩いていた。男は階段を昇り降りしたり、何度か廊下の角を左右に曲がり、そして扉の前に立ち止まりカチャリとその扉に吸い込まれていった。

 『さあ、クイズの時間だ。…僕が……回数は?』
 わたしがなにか答えている。よく聞こえない。向かいに座る男は何度かわたしに質問したりしている。
 『ここまでに……で……何歩?』
 『君は本当に……い!』
 『ほぉら、見えるかい?』
 『絶対に死ぬな、そして殺すな』
 『君は本当にいい、……であったよ』

 『でももう、終わりだ』

 ……呼吸が荒くなっている。動機、息切れ、それからすごい汗だった。いつの間にか手元にあったアルバムは床に落ちており、わたしは少しだけ過去を思い出していた。
 わたしは、何か重要な秘密を握って記憶を消された?

 もう一度アルバムを開く気にはなれなかった。わたしはアルバムを元に戻しそして鍵を取り出す。もしかしたら、この鍵はここのものではないか、というのは直感だった。
カチャリ、とすんなり掛かった鍵を首にかけて服の中にしまう。そしてその場を立ち上がって振り向けば、その男が微笑みながら立っていた。首元に手刀を入れられ、わたしは一瞬で意識を飛ばした。なんと不覚な。




(20141204)レイディ、跪きなよ※3話番外編