学校に行けば女子に囲まれた。 　「様！」「お久しぶりです！」「おはようございます！」 　「今日もお綺麗ですね、様」 　様々な黄色い声の飛び交う中で、わたしは微笑む。 　「おはよう、みんな」 　女子高なのだから当たり前なのかもしれない。それでも異常な執着を持つ彼女らにわたしは苦笑する。下駄箱をあければ手紙の山、机の上には贈り物とお弁当の山、机の中には手紙の山、行く先々でお菓子の差し入れ…エトセトラエトセトラ。バースデイが聞いたら代われと言われるかもしれない。かわいい女の子に囲まれるのは悪くはないけれど、バレンタインの惚れ薬地獄はもううんざりだった。女子は怖い。 　忘れもしない2月１４日、わたしの貰ったチョコレートの山からもりもりチョコレートを食べていたバースデイとはじめの様子がおかしくなったのがきっかけだった。バースデイの異性に対するナンパ癖はいつも通りで何も変わらないように思えたのだが、問題ははじめのほうだ。手作りチョコを食べていたはじめが、急にわたしのもとにすりよってきた。ん…？と思ったのもつかの間。急にはじめがわたしの唇にキスをしてきたのである。カフェノーウェアが絶叫に包まれた瞬間であった。数時間後、元に戻ったものの、そんな出来事があってからか、差出人不明の手作りのチョコにはじめが手を出すのは控えさせている。 　「そういえば先輩、知ってますか？」 　「なに？」名も知らぬ後輩がわたしの腕にすりよってくる。ふわふわとしたロングの栗毛が愛らしい女の子だ。 　「横浜羽学園に、名前はダサいけどカッコいい先生がきてるんですって！」 　「名前がダサい…？」 　わたしがなんだそれは、といった様子で眉をひそめれば、彼女はそうなんですっと頷いた。「田中ムラサキ先生っていうらしくて」 　ぶ、と吹き出しそうになったが寸前のところで平静を保つ。 　「へ、へぇ…そうなの」 　「そうなんです！　もうすっごいカッコいいって有名になってるんですよぉ」 　これ、写真です、と見せてもらった写真は間違いなくわたしの知っているムラサキだった。これは傑作である。

(20141204)ソロモンブルーの行進　※２話番外編