「ふふ、驚いているかな、驚いているだろうね。すべてを暴き出した私を殺っちゃうために集めちゃったのかな、焦ってるね。ずいぶんと、イレギュラーな私のために」 八雲さんはへらりと緊張感もなく笑った。ボクはすこしぞくりとする。みんなもこれから何が始まるのかわからないといったように八雲さんの様子をじっと見ていた。すべてを暴き出したっていったいどういうことなんだ。ボクはまた固唾をのんだ。これから明かされる、真実が八雲さんの手によって。 「それでも、それはゲームとしてルールに沿っていない。間違ったゲームでは観客は喜ばないよ。そして私は君に暴力的危害を加えていない。口封じのために殺したなんて何度も通用するようじゃこのゲームは成り立たないもんね、モノクマちゃん。いんや、絶望ちゃん。あー、こう言ったほうがいいのかな。本当の江ノ島盾子ちゃん。私たちの、高校のクラスメイト。それが君の正体で間違っていないはずだ。そうだね、この写真が物語っている。だっておかしいでしょう、調べれば調べるほど出てくるありえない写真。初めて会ったはずの私たちがこんなに仲良く写真に写ってるなんて、合成ですら考えられない。だってこれは紛れもなくここで撮った写真なんだよね。私の記憶は残念ながら全て戻ってしまった。残念ながら君が私を殺そうとするのはわかっている。邪魔だからね」 「どういうことだ、」 「おっと、探偵が推理を始めたら聴衆は黙って聞いているものだよ。そうだね、まずは事件の概要から説明するべきかな」 彼女が説明しはじめた絶望的事件、それは想像の領域を超える残酷極まりないもので、簡単に信じられるはずはなかった。だがしかし、彼女の掴んできた証拠は、それは確実にその事件が本当にあったと言える、それがこの映像だった。「ま、私一人の力じゃどうにもできなかったけどさ。上映しちゃったほうが早いよね」 『待て待て! こんなのながせるわけないでしょ!』 体育館の壁をスクリーンとして映像が流れるのを、ぷちっとな!と消そうとするモノクマだったが『な!どうして消えないの』と慌てはじめる。『何したんだよこの小娘!』 「どうして? そんなの決まってるじゃない。管理機能はすべて、私がハッキングしたわ。まああなたが気づかなかったのは、そうね、気のゆるみか私に挑戦していたのかどちらかわからないけど、あなたの目が少しだけ私より劣ってたのね。悪は滅びる運命なのよ」 覚悟しなさい、と彼女はへらへら笑った。「さて、事件の説明はあらかた終わったわ。そして私たちのここにいる理由ね」 『そんなの言わせないにきまってるじゃん!』 「そう? 言われなくても話すわ」 『それ以上言ったら、』 「殺す? ルールを無視して?」 モノクマが何かを言っているのに、八雲さんは気圧された様子すらない。慌てふためくモノクマが、なんだか急に弱弱しく見える。いや、きっと八雲さんが強すぎるのだ。八雲。思い出した。超高校級の、天才。それが八雲さんの肩書きだ。超高校級の天才だからこそ、絶望に打ち勝てるのかもしれない。頭脳では、確実に彼女のほうが上だった。勝てるかもしれない、モノクマ、黒幕、絶望、本物の、江ノ島盾子に。 「私は殺されないわ。あなたがどうしてもというのなら、妥協してあげてもいい。そうね、私が絶望を暴いてあげる」 まあそん時はみんなを自由にしてあげてよ。彼女は他人事のようにそう言った。みんなを自由にってことは、あれ、もしかして八雲さんは入ってない? いや、みんなってことは八雲さんも一緒のはずだ。八雲さんだって、一緒に外に出て、(とここまで考えて、ボクは八雲さんが必死に外の世界に出ることを考えているのだろうかとふと考えた)彼女は、外に出ることを望むのだろうか? 『あなたはどうするの、八雲ちゃん』 「あなたとは一緒に死んであげない」 『うぷぷ、なんて絶望! その挑戦受けてやってあげようじゃないか、全部暴けなかったら君が絶望する番だよ…八雲ちゃん。うぷぷ』 「そうね、だいたいは暴けたけど。それに関しては教室をいくつか解放していただかないと」 『全く君はほんとうに我がままで傲慢でひねくれてて歪んでて、それでいて頭の回転しか速くないくせに、計算高いんだからうっとうしいよね。だからこそ、ちょっとここに入れるのは惜しかったんだけど……あーじゃあ捜査時間ね。開始!』 「ありがと、盾子ちゃん」 そう彼女がつぶやいていたのを、たぶんほかの人は誰も知らない。 そしてあっさりと、江ノ島盾子の死をもって僕たちの絶望は幕を閉じた。 ドアの向こうはとんでもないくらいに血にまみれていて、思わずボクは吐き気をもよおしたけれど、八雲さんはそんなボクを少し支えてくれた。生き残ってボクたちを助けようとしてくれていた人たちとも巡り会って、ボクらは協力して生きなきゃいけないって思ったんだ。八雲さんは相変わらずへらり、と笑っていた。 八雲さんといえばその後、大統合全一学研究所ってところと連絡を取ろうとしていたが全く取れず、裏の人間の連絡先をいくつかぽちぽちとあたっていたらしいけど彼らも彼らで抗争があったらしくイマイチ連絡が取りずらいとのこと。「ほんとやんなっちゃうよねー」と漏らしていた彼女にはあの時の覇気はなかったけれど、あの時彼女が動いてなかったらと思うとボクはぞっとするのだ。まだ殺人がおこっていたかもしれない、と思うと。 そういえば、ついに彼女は結婚するらしい。もちろん、十神くんと。ちょっとだけ、住む世界の違う彼女に…ううんなんでもないや。 (▲)(20141226:お題ソザイそざい素材) |