ピンポンパンポン! 奇妙な放送音が流れたのは唐突なことだった。また殺しか、と思って冷や冷やとして周りを見れば、八雲さんも、霧切さんも不二咲さんもいない。かわいい女子が三人もいない、となると不安になるのは仕方のないことで、「あらあらまた殺しかしら」とセレスさんの発言を聞いて、ボクの頬を冷や汗が伝った。先のモノクマの呼び出しは、それでも殺しがあったにしてみれば少しおかしかったようにも思える。十神君が少し遅れてずかずかと体育館に入ってくる。それに続いて、霧切さん、不二咲さんが入ってくるが、八雲さんは一向に現れなかった。放送があって10分はたっていた。 「八雲さんは?」 「さあ、知らんな」 十神クンなら知ってるんじゃないかと思って問いかければ、バッサリと否定の言葉が返ってくる。 「はははやくこないと八雲殿がオシオキされることに…!」 「…ま、またあんなの見なきゃいけねぇのかよ!」 「ま、また人が殺されちゃうなんてやだよぉ…」 初日の江ノ島サンのことがあってからか、みんな口々に八雲さんの身の上を心配しはじめる。それからしばらくみんなで様子を見ていたのだけれど誰もすれ違ってないとのこと。いよいよやばいんじゃないか、と彼女の部屋の様子を見てきたらどうかという案が出始め、誰が行くかと揉めはじめた。結局、じゃんけんでうっかり負けたボクが行くという話になり、体育館を一度出て八雲さんの部屋のドアを何回もノックしてはみたが返答はない。チャイムも鬼のように連打して、ピロピロピロピロ!とけたたましい音をたてて鳴らしてきたものの、彼女からの応答は全くなかった。5分ほど粘ったものの、諦めかけて体育館に戻りダメだったことを話せば、皆一様に首をひねる。 「ちゃんのことだし…えと、また寝てるって可能性はあるんじゃない?」 「ありうる話ではあるが…苗木のチャイムの押し方が悪かったんじゃないのか」 「ええ!? それはないよ十神クン…ボクだって必死に連打してきたんだ…普通ならあれだけならせば起きるよ」 ううむ、とみんなで悩む。 「それならば我が行こう。ドアを無理矢理こじ開ければ、八雲を引きずり出せるはずだ」 「それだよ! さくらちゃん!」 朝比奈さんが必死にそれに同意したけれど、果たしてそれでよかったのだろうか。オーガ…いや、さくらちゃん…が立ち上がり、大和田君も助太刀するぜ!と立ち上がる。ただ、それにしてもである。ボクは一つの疑問を感じていた。何か違和感を感じていたのはこれだったのだ。 「えっと…モノクマ、遅くない?」ボクは疑問を投げかける。「もしかして、八雲さんを待ってる…とかかな?」 「確か、モノクマが言ってたのはこうだったわね。『コソコソコソコソゴキブリみたいにかぎまわりやがって! お前らってやつは、ホントに殺しあって殺しあって殺しあってればいいんだよ! えー、至急連絡したいことがあるので、この放送を聞いたらすぐに体育館に集合すること!』」 「そう! それだよぉ!」朝比奈さんがうんうん、と頷く。「私こわくってダッシュできたんだよ!」 「俺も急いでトイレいってダッシュできたんだべ!」葉隠君もうんうん、と頷く。「急ぎすぎて手を洗い損ねたくらいだ!」 「それは汚いよ…葉隠君…」ボクは葉隠君から少し距離を取った。「それはさておき、モノクマが呼び出しておいて、こんなに遅れることってあったかな…」 「そうね、もう30分は経つわ。いくらなんでも少しおかしいかもしれないわね。なにか黒幕に不都合なことでもおきたのかしら」 霧切さんがそう言ったしゅんかんだった。赤くなって怒ったような形相のモノクマがキイン、と響くマイク音量を響かせながら、あらわれたのだ。ボクたちは固唾をのんだ。 『…ほんとにもう滅茶苦茶にしやがって! あの回路からこの回路まで手ほどきしてあんなことやこんなことまでしてくれちゃって!』 もう絶対に許さないクマーーなんて言っているところに呑気に体育館のドアが開いた。 「おはよう、モノクマちゃん」にっこりといつも通り笑っているはずの彼女が、いつもよりも何か企んでいるように悪戯っぽく笑った「推理ショーの時間だ」 (▲)(20141226:お題ソザイそざい素材) |