まことに不本意であるが、死体はどこへ行くのだろうとモノクマの後をこっそりつけていた。カメラはこっそりと細工をしながら進む。スパイ諜報は苦手なんだけどな、と思いながら私はそれを追いかけ、危なくなりそうなところで物陰に隠れた。もちろん監視カメラに映らない角度を計算で求め、完璧にカメラの視覚に入り込んでいる。犯人からは見えない。すっとカメラの角度がかわったのをいいことに通気口に入り込む。かちゃり、とそれを閉めて、その通気口を歩きながら、敵情報を探り出す。
 死体は安置所のような場所に置かれているらしい。
 私は監視カメラの映像を切り替え無人の映像にしながら進んでいく。ここのカメラたちはもう私の見方であった。そう、第一の殺人が起こる少し前、不二咲ちゃんに頼んでおいたのだ。さすがプログラマである、一日でこれほど精巧なつくりになるとは。いやボロがでてもいいのだ。一日で私がすべて記憶し、すべて思い出し、そしてすべてを暴き出せば問題はない。解放されていない場所も、全てこの合鍵を使って入ることができる。なぜマスターキーのスペアのようなものが私の部屋の、床板を外したところから出てきたのかなんてわからない。それでも、きっとこれは私への挑戦なのだ。過去のわたしからの挑戦なのか、犯人からの挑戦なのかはわからないけれど。他でもない、八雲に対する、挑戦であることは確かなのだ。
 八雲は諜報部員ではない。しかし諜報部員でないときも、諜報活動をしなければならない時だってあるのだ。やらなければ殺される。これすなわち八雲の教えに背く。八雲としてあり、八雲として全うするために、私は全力で赴かなければならない。
 すべての監視カメラを無人状態にしてはモノクマと鉢合わせたときに困る。私がピンポイントでうつりそうなカメラを全て把握し、全て機能を切り替える芸当くらいできて当然。証拠を適当に集め、伝え、そしてどうするか結論を出さなければならない。そしてこの黒幕を成敗せねばならなかった。


 八雲は怒っていた。
 久々にくる怒りに、胸が張り裂けそうであった。血みどろの教室、ロッカーそして安置所。すべての教室を回りつくして彼女が知ったのは、この学校に閉じ込められることはどういうことかという一つの事実。すべての絶望は絶望から来ている。ぴょん、と通気口のふたを外して一瞬でその戸を閉める。物音がしたのである。す、と後退して下へと下る。懐中電灯の明かりが先ほどまでいたところを照らし、私は固唾をのんだ。危なかった。気配が消えたのを見ると、私は音を極力たてないように猫のようにそこを下る。

 「はぁ!? もう普通にあり得ないんだけど!」
 むかつくぅ!と少女の声が聞こえる。彼女だ、と私は本能的に気づいた。私の記憶が徐々に戻りつつあることも、きっと彼女は気づいている。でもまだ完全ではないことも。ただ彼女の予想を上回る速さで私が記憶を取り戻しているのは確かで、それでいて彼女の裏をかかねばならないのだから至難の業だ。学生時代、どうしていただろうか。彼女のことを、彼女のあしらい方を。考えろ、思い出せ。私ならば覚えているはずなのだ。そして少しの引き金でそれは思い出せるはずなのだ。

 「…私の八雲ちゃんったらホント絶望的に勘が良すぎてこまっちゃうよぉ…ふえぇ」
 「だぁからぁ、私様直々に動いてやんなきゃだめってこと!? でもそれじゃあゲームじゃなくなっちゃうしなぁ、つまんない! もっと楽しませてよ、殺しあってよ、絶望させてよ!」
 「あなたのこと、ず〜っとみてるから!」

 一瞬、どきりとして物音をたてそうになる。危ない。隙間からのぞけば彼女がいた。こんなところに通気口なんてほんとうに見てくれと言わんばかりじゃないか。ちらと彼女の様子をそこからうかがう。私の部屋の様子はしばらく同じだ。私が布団でゴロゴロとしている映像がずっと流れている。そう。少しジャックして配線を変えさせていただいた。そんなことはどうでもいい。彼女は、江ノ島盾子は、死んだはずではなかったか。いや、もともと江ノ島盾子は江ノ島盾子ではなかったのだ。江ノ島盾子のふりをした、別の人間であった。だから殺されたのも、別の人間であったのだ。彼女は別人だ。彼女にそっくりな、別の人間で、その彼女も恐らくは。
 私はこれ以上ここに潜んでいても無益なことがわかると踵を返す。そう。そうだった。前からずっと、みんなのことは知っていたのだ。だからこそ私は安心感に満ちて暮らすことができていた。だとすればこの状況は一体何なのだろうか。通気口を通り、通気口出口から部屋に戻る。そして私のベッドの下につながる通路を通り、ベットの下に這い出した。ここから先は簡単だ。ベッドの上で転がっていればいい。映像を10秒後に切り替える。ぴ、とガラス版でできた、一見鏡のようなタブレット端末を操作してカメラを切り替える。タブレット端末はこっそりと制服の中に隠す。もうすでにジャックし終えたここの監視カメラは私の言うことを聞く配下であった。私はベッドに寝転がる。数を数える。これで自然にわたしは映像と溶け込むのだ。もはやすでに手は回っている。あとは探るだけだった。















()(20141226:お題ソザイそざい素材