犯人が苗木君だと誰かが言った。私の名前も挙がったけれど私といえばここにきてから舞園ちゃんと話したのは最初の自己紹介きりだったし例のDVDも見ていない事から、その話がうやむやになったらしい。苗木君は確かにDVDを見つけたのも一番だったし搖動をしようと思えばできなくもないと思うけれど。何かが違うのだ。引っかかるなぁ、と思いながら私はぼんやりと購買のがちゃがちゃに手を伸ばす。と、横から手が伸びてきてコインらしきものをがちゃがちゃの回す部分に設置した。ガチャリと回そうか迷った所で、疑問がよぎった。手を止めてその正体を見れば見たことあるようなないような少年が立っている。身長は私と同じくらいだろうか、少し高いだろうか。首をかしげて彼に問いかけた。

 「ん? 誰かな?」
 「僕だよ、苗木。苗木誠」
 「苗木君、何か証拠が無いかと探していたんだけどこんな所にはないかな…? どう思う?」
 「八雲さんは何か見つけた?」
 「そうだな、そう言えば調理場の包丁がなくなっていたみたいだ」
 ガイシャは刺殺。おそらく凶器は調理場からなくなっていた包丁で一撃。争いの跡があった事からどうやらガイシャの抵抗、もしくはホシはガイシャとは近しくない人物である可能性が高い。ただしおびき出しやすいような人。こじ開けられていたバスルームから考えて、恐らく。…ふむ、呼び出した際に揉めたのかな。まだ現場周辺を調べ終わってはいないからイマイチわからないな。ただ、ちらりと見た限りでは証拠をすべて焼却したようにみえてそうでないとみえる。完全犯罪には程遠い、これは不完全犯罪だ。穴だらけだね、そう思うだろうワトソン君?
 まだまだ確実に追い詰めるためのヒントは足りなかった。学内のいたるところを探したが、まだ決定的物証は少ない。あれがあれば犯人は確定的なのだけれど。「え、えっとホシが犯人? ガイシャが被害者の舞園さんってところなのかな?」苗木君が何か言っているが、私は目の前の事で手いっぱいだった。さて、それでも脳は限界を超えられるのだ。私がやらねば誰がやるのだろう。私はもうすでに彼女に対して差し迫っていた。あとは彼女に対して、水面下からじわじわと浸食するだけ。彼女の絶望はじわじわと浸食してくる。だからこちらも足音も立てずに。

 「苗木はどうやったら皆死なないと思う?」と苗木君に問いかける。へ、と間の抜けたような答えが返ってきたところで私はへらりと笑った。
 「なんてね、もう二人もいなくなってしまった。私は全く無力だった。全員生還はもはや無謀なのだ。それでも私はあきらめないよ。君はどうしたらいいと思う?」
 「生きて犯人を捕まえなきゃ! ボクたちに残されたのはそれしかないんだ…ボクはやってない…だから、ボクがクロに決まったら犯人以外のみんなも…」

 「さて質問だ。これを回すと何か出るのか?」私がくいくいっと苗木君の服の裾を引っ張れば、苗木君はええと、と少し口ごもり懐から何か取り出した。
 「えっと、そうだね…。こんなのが出たよ」
 「おお…なんだこれは…」
 もさもさとしている。とてもプリティなお人形さんだ。ぱあ、と視界がキラキラときらめいた。とても、好みだ。「毛虫クン…っていうみたいだけど…」
 「毛虫クン……かわいいな…」
 「よ、よかったらあげるよ八雲さんに」
 「ほ、本当か! ありがとう」ぎゅう、と毛虫クンを抱きしめる。とてもキュートなお人形はふわふわでもこもこで何だか眠気を誘う。「嬉しいよ、とってもかわいいものをありがと! 苗木君はいいやつだな、そんな君は犯人な訳ない! もちろん、石丸君はそんな事をするタマではないし十神はああして強そうにしているだけだ。引き金を引くときは引くかもしれないけれども恐らく今はそんな時じゃないし何より十神は昨晩から見ていたっていうかずっと一緒だったけど、ほかの部屋に行った様子は一ミリも無かったようだし」

 ええ、と驚きの声が上がるが、苗木君は少しして平静を取り戻したようだ。
 「あ、そういえば八雲さんっていつも誰かと一緒だよね…石丸君とか十神君とか…」
 苗木君はふ、と気づいたように言った。私はうむ、と考える。確かに彼らには世話になっているし、十神は事実今日の朝まで一緒だった。十神にはアリバイがある。もちろん私にも。「苗木君も、その舞園さんとは仲が良かったようだね?」
 「えっ、あ、いやその」もごもごと口ごもる苗木君。「ええと、中学校の同級生だったんだ。舞園さん」
 「そうか! 私も、十神とは小さいころから知り合いなんだ」
 へらりと笑えば苗木君が「え!? あの十神君と!」と驚く。苗木君の表情はころころと変わって面白い。
 「そうそう、偶然パーティで鉢合わせたりとかしたなあ。あの時はとっても楽しかったよ、食べ放題で飲み放題だ! 適当に壇上に出て喋りさえすればおいしいものが食べられた。そういえば、天才の大好きなお嬢様に離島のお家に招かれたこともあったかな? 十神も一緒についてきたけれどあれはとてもいい所だった。帰れなくなりそうになった時はさすがに焦ったけれどね」
 「へ、へぇ……そうなんだ」
 がちゃり、と私がガチャガチャを回せば、何かがプラスチックのボールの中に入っているようだ。「なんだねこれは? 実に興味深いけれど、苗木君はどうやって取り出すかわかるかい?」
 「ちょっと貸してみてくれるかな?」苗木君は私が苦戦するガチャガチャのボールをすいっと上から救い上げるようにとると、くるりと上下逆方向へとそれをひねった。 「ほら、くるっとこうやって回すと、ね? 簡単に開クンだ」

 「ほほう! こんなふうになっているのか…くるっと回すとは実にすばらしいつくりだな。…ところで苗木君、これは何だろうか」
 「…えっと…八雲さんはきっと知らない方がいいもの、かな…」
 「そうか、じゃあそれは苗木君が持っているといい…」ふむ、と私は気を取り直した。 「ところで、苗木君はまだあそこに用があるのかい?」
 「あそこっていうのは、ええと、視聴覚室の事かな…?」
 「事件も起こったことだし、動機というのも昨日モノクマちゃんに散々言われたから見ておかないと後は怖いしね…殺されちゃったら元も子もない」
 「……そういえば舞園さんのDVDを見つけたんだけど…よかったら八雲さんも一緒に見る?」
 私がすっと立ち上がれば苗木君が慌てたように声を上げる。 「ま、待って八雲さん」ぱしりと右腕を掴まれてふらりとする。
 「苗木君は私と視聴覚室に一緒に行クンだろう? 時間は限られているんだ、確実な犯人追及のためにはまず捜査しなきゃならないよ」
 歩き出したところをぐいっとひきとめられてくるりと振り返る。「ま、待って! 八雲さんは、その、ボクの事を疑ってないの?」
 「どうして君を疑う必要性があるというのか、それを説明してもらおうか?」
 「だって…みんなボクの事を……!」
 「君は自分にやましい事でも抱えているのかい? 舞園さんは君が殺したならばその物的な証拠が出てくるはずだ。証拠が不十分では憶測や戯言は言えても推理はできないよ」
 「八雲さん…」苗木君は何か口を開きかけて、「ありがとう」と言った。


 視聴覚室に入れば、そこはしん、と静まり返っていた。誰もいない。それもそうだろう。だってここにありそうなものは特にないのだから。ちらりとそこに乱雑に置いてある段ボールの中を見れば、私の名前の書かれたDVDが存在している。一枚はばらばらに、もう一枚はそのままの状態で。私はそれを手に取ると苗木君が座った横に腰を下ろす。舞園ちゃんが殺されたと言う理由が、そこにあるのだろうか。なぜ彼女は殺されなくてはならなかったのか。

 「八雲さん、これが舞園さんの…」
 「そうか。苗木君、私のも参考までに渡しておこう、と言ってもまあだいたいの予想はつくけれどね」
 「いい? 再生するよ」
 そうして再生された映像は、やはりと言っていいだろうか。見ていて胸糞悪くなるようなものである。私のはどうなのだろうか、とむくむくと湧きあがるような好奇心で私はぎゅっと自分の肩を抱いていた。見方によっては恐怖に震えるようなかよわい存在に映ったかもしれない。もしくは、私はその時に自分自身が感じていないほどの恐怖におびえていたのかもしれない。こんなもので外へ出たいと思うのだろうか。いや、彼女ならば思ったのかもしれない。アイドルという職業が、どのようなものかは私にはよくわからないが色々と大変だとは風のうわさで聞く。

 「私のも再生してはくれないか。これは一人で見ては精神的に堪える。もっとも、君がよければの話だけれど」
 「八雲さん…」
 「未知の領域に踏み込むという事は少しだけ恐ろしいからね実際それが理屈では分かっていたとしても、実際に現実として目の前に現れた時のそれは全く違うものになる」
 ぴー、という音と共に再生機に入れられたディスクが回転する。モノクマちゃんの声がぼんやりとするくらいに、私は映像に見入っていた。いつもと同じ光景、いつもと同じ使用人達、いつもと同じ両親の姿。そしてざあざあと場面が切り替わると、床は真っ赤な血の海に染まり腕や足や胴体のいたるところが切り離された彼らの肉片が散らばっていた。これでは一瞬の生の希望すらもない。舞園ちゃんの映像が可愛く見えてくるくらいの凄惨な光景に私はDVDを止めた。隣で真っ青になる苗木君が目に入ったのもある、しかしこれ以上外につながる証拠も何もありそうには無かった。

 「…済まないね、やはりまあ予想通りではあったが、君には気分を害するものを見せてしまったようだ。本当にモノクマちゃんは胸糞悪い事をしてくれるな…やはり割ったままのほうが正解だった」















()(20141225:お題ソザイそざい素材