苗木くんが見つけたっていうDVDを見るために、僕たちは視聴覚室に集まっていた。ひとりひとり自分の名前の書いてあるそれを機械に入れれば、おぞましい映像が流れて僕はかたかたと震える肩が止まらない。部屋に戻ろうとすれば、目の前でぱりん、と何かが割れる音がした。何が割れたって、それはひとつしかない。あのDVDだ。誰かが割ったんだ。誰が、という疑問は視線をさまよわせれば、すぐにわかった。八雲さんだ。その背中をみて僕はその場で立ちすくむ。みんなが八雲さんを見て固まって動かない。外へつながる手がかりをいとも簡単に手放すという行為でもあるそれは、それでも僕の中では少しだけ正しいような行為に見えた。あの映像を見てしまったから。あんなものを見て、正気でいられるのだろうか。まだ死ぬと決まったわけじゃないけれど、僕はこんなところで生き残れるような気はしなかった。
 そして、どこからともなくひょっこりと出てきたモノクマに意表を突かれてひぃと僕は息をのんだ。確かに八雲さんがDVDを壊しちゃったから出てきても仕方ないのかもしれない。たぶんこれが言いたくないけどモノクマの言ってた動機なんだろう。僕の目の前では八雲さんが腕を組んで仁王立ちしているけれど、やっぱりモノクマのほうが迫力があるような気がした。モノクマのほうが怖いからかもしれない。だから少しだけ八雲さんがヒーローみたいに見えた。もしかしたら助けてくれるんじゃないかって錯覚するくらいに。こんなことしちゃうなんて、きっと八雲さんしかできないことだと思う。僕はこのあとどうなるかが不安で不安で仕方なかった。本当に殺人がおこっちゃったらどうしよう。疑心暗鬼どころじゃないんじゃないのか。そう思ってる僕もみんなもこのDVDをみて、たぶん後悔してるから。こういう時の八雲さんの強さは、少し憧れる。

 『もー! せっかく用意してあげたっていうのに本当にキミは予想の斜め上しか行かないんだから…』ため息をついたモノクマは、しょんぼりとした動作をした。『ボクが丹精込めて作ったDVDなのに…見もせずに割るなんて…君の行動にはつくづく驚かされるよ…クマもビックリだよ!』
 「動機、と言われれてあの反応をみればある程度想像はつくね。映像編集ならば可能な事はいくらでもある事だし私には今それは必要ではない事に違いない。こんなふざけたものを作るような金銭的余裕はどこにあるんだい? バックグラウンドに何か組織でもついているのか、それとも君自身が裕福なのか。この学園についても聞きたいことは山ほどある。色々と可能性はあるけれども君で反応を見るのも少しばかり時期が早いね。それにしても、私を殺すなら私が倒れた時が一番だったんじゃないかな? 君も邪魔な私を排除できて一石二鳥だっただろう、これで後悔して絶望するのは君の方だよモノクマちゃん」
 『はぁもう、うるさいなぁ! オマエラはオマエラで殺し合ってればいいの! ボクが手を下すまでもないんだからね…全く…そんなこともあろうかと! じゃーん、君の分はもう一枚用意してあるんだよ! うぷぷ、びっくりしちゃった?』

 モノクマと八雲さんとのやりとりをハラハラしながらみていれば、モノクマがどこからか八雲さんのDVDを再び取り出した。これには八雲さんもビックリしたみたいで、モノクマからそれを受け取ると光にかざしたりしてDVDの様子を見ていた。苗木くんと舞園さんは出て行っちゃったし僕も本当は出ていきたいんだけれど、出て行く空気じゃなくなっちゃって出て行きづらい。どうしよう。

 「用意周到じゃないか。私がこうする事がまるで事前に分かっていたみたいに」
 『もう! 君の行動なんて全部すべてクマッとお見通しだよッ! というわけで置いていくから今度こそ見ないとオシオキしちゃうゾ!』
 モノクマがひょこりと消えた。どっと疲れた様子で、はぁ、とため息を吐く八雲サンはそのままDVDを段ボールに捨てるように投げ入れようとして、思いとどまったみたいだ。やっぱり八雲サンもモノクマの言葉は引っかかるのかもしれない。オシオキ、という言葉に『処刑』という残酷な響きを思い出してしまって目に涙が浮かんできた。泣いちゃダメなのに、やっぱり僕は弱いままなのかもしれない。いろんなしがらみにとらわれて、そのまま。複雑な表情になった八雲さんに、僕と同じように眉をハの字にした朝日奈さんが声をかける。

 「ちゃんは家族が心配じゃないの?」
 「常に物事に関しては冷静で客観的に見なければ全体は見えない。私情を交えれば視野は狭まり少しばかり可能性が消えるからね」
 八雲さんが出ていこうとしたところではっとして気づくが、それは少し遅かったかもしれない。朝日奈ちゃんは怯えたように彼女を見ていたからだ。あの映像を見てしまったから、やっぱりみんな不安になっているのかもしれない。気持ちを強く持とうとするたびに、恐怖が足元をすくうような感覚。ふわりとすべてが崩れていくような、絶望。

 「あー、そういうつもりじゃあなくてね。見てしまっては少し考えられなくなる気がしたんだ。言い方が良くはなかったね。すまない。私も君と同じように家族は心配だよ」
 「ううん、私こそ、ごめんね。ちゃんの言うとおりだ…こんなの、見ない方がよかったよ…」
 「大丈夫、私もなんとか手は打ってみる。だからそんな顔をしないでくれ。ほら、不二咲ちゃんも大丈夫だから」
 ぽろぽろと涙を流す朝日奈ちゃんを八雲さんはよしよしと慰める。反対の手で僕の頭もぽんぽんと撫でてくれた。
 その後ろから緩やかに八雲さんの隣を通り過ぎる十神くんは彼女の背後から制服の襟ぐりあたりを掴んで「ちょっと来い」と言うと八雲さんを部屋から引きずり出した。大丈夫かな、と僕が言うと、朝日奈さんが「大丈夫だよ! だってちゃんがそう言ってたもん」と僕を慰めてくれた。そうだよね。八雲さんもそう言ってたんだ。

 はぁ。慰められちゃうなんて、ほんと情けないなぁ。僕も強くならなくちゃいけないのに。
 彼女はまるでヒーローのように輝いて見えた。僕も、あんなふうになれるかな。彼女に、僕は少しだけ元気がもらえた気がする。



 「ところで不二咲ちゃん、頼みごとがあるんだけど」
 へらり、と彼女が笑った。彼女の言うことなら、僕は戦える。こっそり耳打ちされた言葉に僕は頷いた。















()(20121015:お題ソザイそざい素材