「うーん」 目覚めれば自室…いや自室ではないどこかにいた。これはまたどこに連れてこられたのかと思いながら重たい半身を起して私はぐるぐると部屋の中の探索を始める。ぐう、とお腹の虫が鳴る。お腹すいた。周りを見渡せばご飯が丁寧に据え膳のごとく(据え膳の使い方が合っているかどうかは今は問題ではない)置いてあったので私はキャラにもなくご飯の入った茶碗と箸に手を伸ばした。もぐもぐとよく噛んで食べていると、ご飯とはこんなにもおいしいものだったのかと何となく感動する。あっという間に味噌汁からたくあんからサイコロステーキとうなぎパイが5つ(何でこの組み合わせなのかは謎である)もろもろをすべて食べ終わった私は、お部屋の探索を始める。私の部屋には膨大なる量の張り紙があるので私の部屋でないことは確かだ。しかし、『質実剛健』の文字が鉄板に張り付けられているこの部屋、もしかして。私は家主の見当たらない部屋の探索をおおむね終えた後に、がちゃり、と調べる場所としては最後のシャワールームを開けて驚愕を隠さざるを得なかった。石丸君がいたのだ。もちろん衣服なんてシャワー中なんだから着ているわけがない。 「悪かった」 私は驚きすぎて逆に冷静になってしまっていつもの淡泊な言葉が口をついて出た。「私の部屋ではなかったものだからつい」 「う…、あ、…ぼ…僕こそこんな姿で申し訳ない…きちんと説明するべきだったと思うのだが…モノクマから直々に僕が君の世話係に任命されてしまって、だな」 「…モノクマちゃんが? またどうして」 私の世話係とか…珍しいこともあるもんだと私は思った。 「君は放っておくといつもいつも無茶をするだろう…、今回の事もそうだ。モノクマは馬鹿みたいに餓死で死人を出したくないそうだ。だから今回のような馬鹿げた事が起こらないためにも、僕が八雲くんの世話係に任命されたのだッ!! 大きな猫と思えば訳はない、という事なのだ…がッ!」 「石丸君?」しゃあしゃあとシャワーの水は流れている。 「しかし僕には君はやはり大きな猫とは考えられない…一つの部屋に男女が一緒に寝泊まりするなど、言語道断。不健全だ…こんなところで《不純異性交遊》など…」 「そんな石丸君が断ってないという事は、断ったらおしおき、…とかそういう事か」 『ぴんぽんぴんぽーん!』 「あ、モノクマちゃん」 ひょっこりとどこからともなく飛び出てきたそれは、うぷぷ、と奇妙な笑い声をあげながら『石丸君チャンスですね。…襲っちゃう? 襲っちゃえば? 襲うしかないよね? こんなところで可愛い無自覚な天才ちゃんと同じベッドで二人っきり…なーんて! そんな事見るのはちょっとクマには耐えられないっ、そんな事をしてもムダムダムダムダァ!』うぷぷ、とそれはまた奇妙に笑う。 「僕はそのような人並み外れた行動はしない…! 心得ておきたまえ!」 『そのだらしないかっこうで言われてもねぇ〜』 モノクマちゃんはニヤリと笑う。石丸君に100のダメージ。 「…うぐっ!」 「モノクマちゃん、石丸君だって着替えたいだろうから少し席を外してあげよう」 『まあ男の裸なんて見ていても気持ちのいいものじゃないしね、じゃあボクは帰るよ。ばいならー!』 「ばいならー」…まるで嵐のようなクマである。 私はモノクマちゃんとともにシャワールームを出た。ごろごろとベッドの上で転がっていると、満腹感からか何だか眠気が襲ってくる。うとうと、と私の意識が舟をこいでいると石丸君がシャワールームから出てきた。今度はきちんと服(と言っても就寝用のジャージである)を着て、申し訳なさそうな顔をしている。 「申し訳ない、八雲くん…僕は、僕としたことが…」 「…石丸君が気にすることはない」私はごろりと寝返りを打つ。うつぶせに転がる。あくびを噛み殺すが、眠いものはごまかせないのだ。シーツに顔を押し付ければ石丸君の石鹸のにおいがベッドシーツからする。いい匂いがした。そういえばここにきて二日になるがシャワーを浴び損ねていることを思い出す。しかし今日はそれ以上に眠たい。明日の朝にでも浴びようかと私はもう一度ふわあ、とあくびをする。 「し、しかしッ! 僕も守らねばならない秩序というものが存在するのだ」 「仕方ないことだ、…そう落ち込むな」 石丸君が「八雲くん」と不安そうな声で呼ぶのも、何だか心地よい催眠術のように聞こえてくる。眠気とは不思議だ。 「眠い。私は寝る、おやすみ」 私はふわあ、と大きなあくびをしてから瞼を閉じる。 「…! …八雲くん!? う、返事をしたまえ!」 「う、ううん」がくんがくんと半身を起され、肩を揺らされて飛びかけていた意識が舞い戻ってくる。でも眠気が完全に冷めたわけではない。 「ベッドが一つしかないなど…矛盾している…うぐぐぐ…」 「…石丸君も一緒に寝ちゃおう」 「な…ッ! そんな事をしては…」 「大丈夫、同意してるから『異性同意交遊』」 石丸君が私の肩から手を放し、こわごわとした様子で反対側からベッドの上に乗る。耳まで真っ赤だ。ぎし、とスプリングが軋んだ。 「そ、そうか…だがしかし…二人の男女が就寝を共にするなど…」 「まだ言うか。…寝ないと体力を削られるだけだぞ? 要は、君が襲わなければいいというだけの至極単純な話だ」 「う、ぐ…一理あるな…」 「一回慣れてしまえば他愛もない」ふわあ、と私はあくびをする。ごろりと横になれば自然と瞼が閉じる。もう限界だった。「そういうものだよバンジージャンプと同じ原理だ」 すう、と私の意識は睡魔によりそこで途切れる。 (▲)(20100212-20120818:お題ソザイそざい素材) |