(#「甘いだけならニコラシカ」の続きっぽいもの)



 気にやまなければいいものなのに気にしてしまうが世の情けというものだろうか。ぱらりとめくるページにその名前を見つけた。へんな名前、と思わず小さく漏れて首を振った。そんな事してる場合ではないのだ。はやく帰らなければいけない。わたしは名簿をもとの位置に戻すと、じゃらじゃらといろんなもののついたカバンを掴んで教室を出た。


 「また会ったな人間」
 「げ」その影は唐突に現れる。彼の名は田中眼蛇夢。奇妙な言動ながらなんだか言ってる事はそれほど間違ってないから少し悔しい。ちょっとした嫉妬だ。「なんでいるの」
 「別に貴様の姿をこの邪眼が捕えたからといえ待ち伏せていたわけではないぞ!」
 「まあ別にいいけどさ」
 言っていることがわかりやすいのかわかりにくいのかよくわからない奴だ。「何か用?」
 「フン…喜べ…俺様が貴様と甘き蜜月の果てに螺旋の内を廻ってやらんことも…ない」
 「わかった」
 ラジョウノウチって何だ、と思ったけれど廻るんだからどこかへ行くのだろうか。逆に『帰ろうぜ』ってだけの話かも知れない。まあ下校時間なんだからそりゃみんな帰るだろうななんて考えて気づけばわたしは頷いていた。この人はほんとうに変な人だ。わざわざ独自の言葉を形成して喋るなんて、普通の人じゃできない。たぶん、普通の人はその言葉を理解できないしみんなが独自の言語を話せばみんな混乱するから話さないだけなのかも。そうするときっとわたしは普通じゃないのかもしれない。そもそも普通って概念が多数決みたいに決まっているんだから多くない少数派は全員普通じゃあなくなるってことになる。これってなんかおかしいんじゃないか、と考えたところでやめた。別にわたしには関係ないからまあいいけど。


 「人間、貴様は俺様の真意なる魂の譚が理解できると言うのか」
 「まあ」
 「黒煙を纏うのはやめたか」
 「減った」
 私学だからかゆるい校則と土足でぷらぷらと歩ける校舎。無駄に大きい踊り場を抜けて、校舎の外へ出る。校舎にはまだ生徒が何人か残っていて、各々帰路を歩いていた。そ の中には改造してる制服を着てる人もたくさんいて、私もそのひとり。授業をサボっていても学校が学校だしその中じゃわたしも頭は悪い方じゃないから多少の非行は目をつぶって もらってるんだけど。たぶん。まあ煙草とかが見つかれば停学とか悪ければ退学だってあると思う。まあある程度お金を積んだら大丈夫って話も聞くしきっと悪い学校なんだろう。居 心地は悪くないけど。


 「貴様、もしや”特異点”だな」
 「何か特典つくの?」
 わたしが聞けば何気なしに隣を歩く彼はがしりとわたしの手を掴んだ。
 「俺様に触れる事を許す」
 「え? うん、ありがと」
 「”制圧せし氷の覇王“である俺様と共に歩む気はあるか」
 なにやら会話がおかしな方向に進んでいることに気付く。「つまり、それってそのまま受け取っていいの?」
 「こういう事だ」



 そして唇に触れたのは、















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