ふらふらと海と陸との境界を歩きながら波間を漂う魚の影をぼんやりと追いかけていた。わたしの頭の上には、ゆらゆらと煌めく月明かりと満天の星空だけ。美しい風景なのに、どうしてこんなことになってしまったの。理解の及ばないわたしに残されたのは、この世界にさよならを告げることだけだったのかもしれない。ひらりとゆらめくスカートを翻しながら、わたしは重力にまかせてゆっくりと海の中に入っていく予定であった。一瞬の浮遊感、そして空中での静止。がくん、とした衝撃のあとにぶらりと力なくわたしはその腕から垂れ下がっていた。そしてがっちりとわたしの腕を掴む何者かを見上げれば、それは左右田和一その人だった。


 「ったく何してんだよお前はッ!」
 「あ、ご、ごめ…ん……」
 「あぶねーだろ! むやみにそんなとこ近づいてたらよォ……もうちょっとでお前、海に落っこちるとこだったんだぞッ!!」
 このひとは、純粋にわたしが足を滑らせて落っこちそうになったと考えているようであった。実のところは異なるが、わたしが口を開こうとしたところで、彼がまた怒鳴る。そして再び浮遊感に襲われたわたしは、次の瞬間には地に足が付いてた。左右田くんが引っ張り上げたのだ。まだ、サヨナラを告げるのは許されていないらしい。


 「くっそ、これ以上心配かけてんじゃねーよ…」
 「ありがと、左右田くん…」
 わたしの頭をぐりぐり撫でながら、左右田くんがわたしの背に手を回す。ちょっとだけ胸を借りよう。そうしたら、こんな夜も眠れるかもしれない。















()(20121201:眠れぬ夜はいたずらにソザイそざい素材)別所リクエストSS