お仕事が長引いている。うにー、とディスプレイの前でうなだれていればブザーが鳴った。もうお昼なのかぁ、と思って時計を見ればまだ朝の5時である。何事かわからないけれどどうぞーと言えばぱたぱたと慌ただしく左右田くんが入ってこようとしてコードに足を取られて引っかかりそうになって奇声をあげながら階段を転がるように降ちてきた。わたしは電源に異常がない事を確かめてメールを送信する。仕事依頼先と仕事相手と、とりあえず両方。定期的に行っている苗木くんからのテレビ電話はこの部屋かみんなが仲良く寝ているあの部屋に設置されている。

 「あーちょっといま手が離せないんだよね…、会話はできるから話は続けていいよ」
 「ちょ、マジでやべーんだって! あ、アイツが起きちまったんだけどよ、…あ、狛枝の事な!」
 「なにかあったの?」
 「ちょ、ちょっと取り乱して、あーなんつーか、説明しづらいからみょうじに状況見てもらおーと思って呼びにきたんだけどよ…」
 「うーん、仕方ないなーあと5分でなんとか片付けるからちょっと待ってて」
 カタカタとキーボードの音だけが響く。左右田くんが興味深そうに近くによってきてキーボードを覗き込んでいるみたいだけれど、ディスプレイに表示されてるのは見られても困るようなものじゃないから大丈夫だろう。問題は彼の趣向だろうか。すぐにバラしたがるのは困ったものだ。わたしのソフィーちゃん(改造してもらったスーパーコンピュータ)をほかの人に触らせるのは少しばかり抵抗がある。

 「なぁ、その間にちょっとこのあたりの機械バラしてもいいか? なぁ、こんなディスプレイ10個も並んでるパソコンなんて見たことねーし…、そのキーボードも見たことねー形状してるしよォ…! バラしたくてたまらねーオレにとってこの部屋は宝の山に見えるんだよなぁ…! なぁ、ちょっとだけ、ちょっとだけでいーんだって! っつーかよォ、ほら、この先っぽのコードだけでも…なぁ、それくらいいーだろ? なぁ、頼むって!」
 「だめだよ、わたしのプリチーなソフィーちゃんを改造野郎に陵辱させるなんて耐えられないよ」
 「りょ…、ってそんな卑劣でも卑猥でもねーよ! もっと合意を得てやろうとしてるっつーの! だからお前に頼んでんだろーが! お願いします、なんでもします!」
 「必死に頼んでもだめだよ、ソフィーちゃんはまだ先輩んちに嫁には出したげない」
 「……ダメか?」
 「いくら言ってもだめなものはかわらないよ、左右田くん一生パシリでも安いくらいだからだめー」
 「じゃ、じゃあこれでどうだ! これやるからさ、ちょーっと改造させてくれよ!」

 目の前にわたしの大好きなアンティークドール。以後ジョセフィーヌとでも呼びたいかわいさを誇る天使だ。でもしかしソフィーちゃんを左右田くんに明け渡す気はさらさらなかった。わたしは興味のないふりをしてカタカタと入力を続ける。セキュリティを突破したわたしはダウンロードを開始する。

 「…………やだ」
 「今の間はちょっと考えた間だな! …欲しいんだろ、だから」
 「よし終わった」
 カタン、とエンターキーを押す。これで一応一連の仕事はなんとか終わった。満足げに振り向けば、左右田くんはぷるぷると震えたかと思えば突然大声を上げてすごい形相でわたしの愛するジョセフィーヌを握りつぶした。ああかわいそうなジョセフィーヌは帰らぬひととなってしまった。ぽろぽろとジョセフィーヌの右腕のかけらと本体が床にこぼれ落ちていく。人形に釘づけになるわたしに、左右田くんがなにか言っているのが遠くの方で聞こえた。意識のぼんやりとしたままのわたしはずるずる左右田くんに手をひかれて歩いた。

 その後のことは全く耳には入らなかったけれど、狛枝くんの件は苗木くんとエゴちゃんの協力でなんとか収集がついたのでよかったと思う。わたしのかわいそうなジョセフィーヌは左右田くんが右腕をなおしてくれたけれどもなにか違和感が拭えないのは気のせいではないはずだ。















()(20120907:お題ソザイそざい素材