ふわぁ、とあくびをして目覚める。苗木くんたちを見送ってからしばらく経って、ぽつりぽつりと人が目覚めるのを見ているけれどまだ起きてこない人もいるようだ。意識的なものが生きているのか死んでいるのか錯覚を起こしているというだけなのに、目覚める時間にはやはり個人差があるみたいだった。私の目にはそれはバラバラに見えるのだけれど、一定の何かがあるのだろうか。ううん、と首をかしげて悩んでから、床に張り巡らされているコードを踏まないように洗面台で顔を洗った。壁一面のパソコンのディスプレイの何個かに何件かメールが来てたけどどうせ仕事か苗木くんからのメールだろう。後で確認しよう、とタオルでもさもさと顔を吹いている時にぶうっとブザーが鳴る。どうぞーと声をかけると日向くんが入ってきた。最初はこの床一面コードに覆われたようなお部屋をみて顔をしかめていたけれど今はちょっとなれたみたいだ。 「なぁ」 「どしたの日向きゅん? いつもお昼の報告なのに今日は朝からなにかあったの? お赤飯?」 「そう思うのは勝手だが、もう昼だろ」 「えっ、もうそんな時間なの? あーあ、昨日はちゃんと今日になる前に寝ちゃったんだけどおかしいなー」 「えっと、そろそろ本題に入るけど大丈夫か?」 「うん? いーよ」 「今日は誰も目覚めなかったみたいだ。それで今日までのノルマは一応達成はしたぞ」 日向くんから今日のノルマの花かんむりを受け取って頭に被る。 「ご苦労さまだね! じゃ、今日は好きに過ごしても大丈夫だよってみんなに伝えていーよ」 ふわぁ、とあくびをすれば日向くんが「あのさ、」と話を切り出した。 「俺たちは、本当に殺されないのか? みんな生きて帰れるのか? 無事に絶望を克服できるのか? ……なぁ、みょうじ…お前はどう思う?」 「うん? 一つ目の質問だけど、マリーちゃんのことを言ってるなら心配無用だよ? わたしにナイフ銃火器以降もろもろ省略の危険物が向けられない限り、殺すまでに至るようなことはないし。二つ目の質問は難しいね。わからないかな。みんなというのがこの島にいる全員なら、それは起きるか起きないかわからない人たち全員に希望を捨てなければ確実に叶うよ。絶対に目を覚ますってね。3つ目は君が一番わかってるんじゃない? 克服できるかどうかじゃなくて克服しなきゃいけない、つまりifじゃなくてmustだよ。平手打ちじゃなくて確実にあたま狙う感じね」 「…わかった…ごめんな、なんだかたまに不安になるんだ…自分が何をしたのか、何を考えていたのか、どうしてこんなことをしたのかわからなくなる…」 「絶望って複雑にできていてね、わたしもまだ全部把握できてないから研究中なんだけどいろんなことしてるみたいだよね…わたしはそもそも生き残ったのが幸運みたいだったし学校を出てもマリーちゃんがいたから殺されずに済んでるだけだしね。狙ってる人は今でもスナイパーとか雇って狙ってるんじゃないかな? 理由はどうあれ日向きゅんは気に病む必要はないよ。君たちは前を向いて歩いて行かなきゃいけない人だからね」 「……ありがとな、えっとこれなんだけど」 日向くんはもぞもぞとポケットからなにか取り出して、わたしに差し出した。よく見ればおいしそうなクグロフである。 「くれるの?」 「あ、ああ。そこの景品で出たんだけどよかったら…」 「ねえ日向くんってどうしてわたしが欲しいものがわかったの? もしかしてエスパーだったりしたの? エスパー日向先輩って呼んでいい?」 「ちょ、ちょっと待て! それはまあみょうじが好きそうだとは思ったけどエスパーってほどすごいものでもないぞ!? ちょっとアレだからその呼び方は勘弁してくれ!」 「もごもご、」クグロフをもりもりと頬張れば、ふんわりとしたおいしさが口の中に広がる。「ていうか、ちょうどお腹がすいたところだったんだよね。マリーちゃんはまだご飯とりにいって帰ってこないからお腹がぐーぐー鳴って背中とくっつくところだったっていうかお腹すいてたんだけどね、ちょうどよかったよサンクス日向きゅん」 しばらく日向くんと過ごした。日向くんはなかなかに空気が読める人かもしれない。 (▲)(20120907:お題ソザイそざい素材) |