「今日のラインナップ…ええと、これが一番無難そうか? サンタだろ? 夢を運ぶよな…?」
 「…タイトルにサンタって入ってるからかわいい映画なのか、ダークとも書いてあるだから恐ろしいのかその判断は極めて難しい所だけど今日はこれが一番無難そうだね…」
 「…因果律の定めを感じるな…人間風情や雑種にしては俺様の事を理解していると言ってもよかろう」


 これでホラーにぶちあたったら三人共恐らくアウトだろう。私は内心どきどきしていた。ホラーでは無い事、スプラッタでは無い事を祈るばかりである。サンタならいい、それが間違いであった。てってれーんとどこかの王子のようにどこからともなく現われたモノミちゃんの登場で、事態が一変する。ぎゃああ、と左右田君が叫ぶ。私も恐怖におののきながらウサミちゃんを見る。しかしたかだかウサミちゃんだ。ウサミちゃんは無害である。有害であるのはこのラインナップの方だ。どうしてホラー駄目そうな三人組がそろってしまったのか。私はまことに遺憾である。


 「はわわわ…それは…伝説のサンタ映画でちゅね…みなさんの思う映画とはちょっと違うかもしれないでちゅ…」
 どきどき、と変な汗をかきながら(いったいどこから出ているのだろう)ウサミちゃんは答えた。私もどきどきである。
 「…こっちは?」と別の選択肢を指させば、左右田君が顔を真っ青にした。
 「ひぎにゃああ! 、いいか、それだけは駄目だ! …オレはそいつを一分も見ていられねーくらいトラウマになっちまった…お前も手術されて繋がれて這いずりまわる人間とかそんなもん見たら……そりゃあ夢に出るに決まってんだろッ…! オレだって最低三日、いや、一週間はロクに眠れねーぞッ…!」
 どうやらこれはホラーの類のようである。かわいいようなタイトルだと一瞬でも思った私は思わずひっと息を飲んだ。田中君も隣で目を見開き固まっている。どうしてこうもツイてないのだ…こんな事ならば、ふらふらと眠そうに歩いていた狛枝君も一緒に映画館へ連れてくるべきだっただろうか…。狛枝君がいたからと言って、本当に私たちの都合のいいようにできるだけ怖すぎるホラー映画に当たらないような運が向いてくるかどうかは謎である。むしろ逆にもっと酷いようなラインナップが並ぶかもしれない。考えるだけで怖くなってきて私は首を振る。
 「こっちも却下だね……」
 ちらりと残った選択肢を見た。井戸やテレビからにょきにょきと出てくる人の話など、もう誰が見るのだ…もう私は見ないぞ!


 「…既に白い髭の生えた老人の映画だと決定したはずだ…! もはや議論の余地は無い」
 嫌な空気を感じ取った私は背中に嫌な汗がたらりと垂れる。田中君と目線を合わせれば彼も深刻な顔をしている。私もごくりと固唾を飲んだ。もう帰りたくなってきた。


 「い、今更だが科学的根拠に基づいたような映像じゃないし、そのようなものをわざわざ見る必要性は感じないかもしれないな……」
 「ふん、今回ばかりはこの雑種風情が俺様と同意見のようだ…そんなものは無意味だな…! 俺様の地獄での経験談の方がよほど恐怖だった!」
 「そ、そういうお前らが一番怖がってんじゃねーかッ! おおおお、オレは見るぞ! ここまで来て何言ってんだッ! ささささ、サンタなんて怖くなんて何ともねーからな!」
 「…一番怖がっているのは君の方ではないのかね、どうしてもというのなら君一人でここにいたまえ、私大人しくお留守番してるぞ! お留守番くらいなら一人でもできるぞ! でもちょっと怖いから誰かいると嬉しいな…」
 「俺様が共に興じてやろう、喜べ雑種! どどどどうしてもというならだがな! フハハハハ、俺様がいれば霊など皆逃げ去るわッ!」
 「うっせーうっせー! いいからつべこべ言ってねーで、お前らも一緒に見るんだよッ! せっかく来たんだし道連れだかんな!」
 「や、やめろ左右田君! 私はパスすると言ったはずだ…」
 「人間風情が俺様に気やすく触るなど……! 何をする! 離せ!」
 「旅は道連れって言うだろ…オレだって…本当は行きたくねーからこそお前らは逃がさねぇぞ!」
 「ゆ、友好を深めるんじゃないのかこの企画は!」
 「まー、なんだ…これだって一種の友好だ! つ、吊り橋もみんなで渡れば怖くねーって言うだろうが!」
 「…それって青信号の間違いじゃないのか? 皆で墓穴を掘ってないか? 皆で渡ると体重とかそのへんが相まって下手をすれば吊り橋が壊れるんじゃないか?」
 「……人間が見苦しい争いだな…四天王も呆れ果てているぞ…!」
 「そう言ってガタガタ震えてんのはどこのどいつだッ! 怖くねーかもしんねーだろ、覚悟決めて行くぞッ!」


 みんなで某スプラッタサンタ映画を見た…


 「ふえええ、もう煙突とかついてる家に住めないよおおお…、ぐすん…何で? ねえ何でこんな映画作ったの? もう夜怖くてずっと煙突のアレみて過ごしちゃうくらい怖かったけどどういうことなの? 私もう一人で寝られないよ…こんなのぜったいおかしいよ…」
 サンタのくせに生意気な映画だった。血染めの街を見た時にはみんなで固まった。やっぱり今日は映画館に来るべきじゃなくみんなでのんびりとお昼寝をするべきだったのだ…



 「人間…覚悟はできているか…」
 「…なんだよそれ! オレは別に悪くねーからな! 今日のラインナップが悪すぎただけだ! ハムスターちゃんのくせにオレを睨んでんじゃねーよ」
 「…な…! なんだと! …そんな俗世での呼び名で破壊神暗黒四天王を呼ぶな…! それにしても、その四天王ですら先ほどの映画からぐったりと元気がない様子…反逆の使徒であるあの髭の老人は侮れんな……」


 ガタガタと三人で震えながら映画館を出た。




 「ねえねえ、今日田中君のコテージに泊まってもいい?」
 「いやいやいや、駄目に決まってんだろ! そこは冗談でもいーから『左右田君のコテージ』に直してもう一度ッ!」
 「ん? 左右田君も寂しいなら田中君と一緒に泊まっとく? に、人数は多ければ多いほどいいって言うし…ね、田中君はどう思う?」
 「……泣いて懇願するならば今宵の宴に招待してやらんこともない…喜べ…!」


 田中君のコテージでトランプをしながら物音に怯えて一夜を明かした…。翌日、採集に行く元気が無く三人共ぐったりとしていたのは言うまでもない。












×)(20110207)//LUMP