(永遠を夢見る宝石)




 私に永遠を夢見るなんて間違っていると彼に言ったら即行で否定された。


 「あなたは、ダイヤモンドみたいなものです」


 よくわからない例え方をされたものだ。絶対強度を持つ世界一硬い鉱物と言われるダイヤモンドにたとえられたところで、私は強靭な心を持っているのか心臓に毛が生えた人間なのかと捻じ曲がった私の心は解釈を進める。そうだ、私は世界一ではないにしろ捻くれたような性格をしている。どうせ私なんてそのような目でしか見られていないに違いないという想いで毎日が鬱々としている根暗少女である。周りからもそのように映っているに違いない。
 公園のベンチに座ったままで私は首をかしげると、目の前に佇む彼は分かりませんかと残念そうにうなだれた。こちらも何だか見ていていたたまれない気持ちになってくる。


 「そんな表情をしないでください」
 「でも、」おかっぱ頭の彼はあきらめない。「僕にはそう見えるんです」
 そう見えると言うのは、ただの根暗少女に見えると言う意味だろうか。そういう意味なら別に否定はしないが、彼の口調からしてそういう意味ではないことは明白。しかし、具体的にどのようなことが言いたいかどうか彼の表現では語彙が足らなさ過ぎた。かといって私に語彙力があるわけではない。寧ろないほうだ。勉強はできても、話をする際の語彙力に欠けていると昔からよく言われた。



 「私のどのような所が、ダイヤモンドだと言うのでしょう」
 逆に問いただしてみると、彼はまっすぐな目をしてこちらを見て堂々とした口調で答える。
 「穢れない行動、きらきらした動作、ずば抜けた戦闘能力と体術、青春してる幻術、全部です!」
 意味が分からない。
 私のどこが穢れないと言うのか。私の存在は穢れているもの以外の何物でもなく、動作は常に鬱蒼としており、戦闘能力も体術も人並み。というか、彼のほうが体術は上じゃないのかと問いたい。そして幻術にいたってはそこら辺にいる上忍レベルつまり私は平均的に上忍以外の何物でもない。寧ろ『青春してる幻術』とは何なのだろう。それがどうしたという所存である。彼は私が平均的だと言いたいのかと、私の中に居る何者かが意見を述べた。
 しかし、普通だというのをダイヤモンドと言う鉱物に例えられて喜ぶ人をいまだかつて見たことがない私にとって、自分をダイヤモンドにたとえられたときに対する行動の仕方が全くといっていいほどに思いつかないのである。どうやってリアクションをとればいいのか。はたまた別にとる必要もないのか。


 「私はすべてにおいて平々凡々な能力しか持ち合わせていませんが、そういう意味ですか」
 「そんなことはありません! さんは立派に輝く忍者です!!」
 「駄洒落ですか」
 すいません、私冗談が通じない人なんです。と彼に言ったら彼は真面目に言ってますと凄んできた。凄まれてしまった、なんてことだろうか。何でこんな大真面目に、平均的だという主張を受けなければならないのか。私の脳みそはパンク寸前である。


 「今日は何の日か知ってますか!」
 なぜそこで感嘆符なんだろう、と疑問符を浮かべながら頭を振ると、彼は「ホワイトデーです」と意気込んだ。だからどうしたといったところだが、私は彼の会話を黙って聞くことにする。大体彼に何を言っても、私の足りない脳みそではよく分からないので最後にまとめて質問しようと考えたのだ。
 「本当はバレンタインに貰ってもいない方にお返しをするのは道理がなっていないんですが」
 彼は、ポケットから何か取り出す。「受け取ってください」と言いながら、渡してくる。私は断ると言う技術を知らなかったので大人しく受け取った。


 「なんでしょうか、これ」
 と言う私の問いに、プレゼントですと言う返答が返ってくる。それは分かっているので中身について知りたかったのだが、取りあえず本人の前で開けるのは日本人として気が引けるのでそのまま膝の上に乗せておく。
 「開けてくださって構いませんよ」
 了承を得たが、開け辛いなんて私ではない。こう言われたら、遠慮なく堂々と開けるのが私だ。とてもずうずうしいこと極まりないが、気にしてはいない。寧ろこの場合は開けないほうが、相手の気を損ねることがあるからだ。小市民として暮らしている私だ。そんな事で評判を落とすほど落ちぶれてはいない。
 「では開けます」と一言断わりをいれて、包装を丁寧にはがしていく。


 そして出てきたのが『努力』と書かれた鉛。…鉛?


 「鉛?」
 思わず口に出して言ってみると、僕がつけていた鉛の一枚ですと言われた。いやいやいや、そういう意味ではない。どうしてホワイトデーと自分で言いながらも女々しいものではなくて鉛をわざわざ選んでプレゼントに選んだのかどうかとか、今聞きたいのはそういう事だ。別に君がつけていたかどうかとかそういう問題ではないだろうと私は頭を抱える。考えれば考えるほど意味が分からない少年である。


 「僕と付き合ってください!」
 とそんなタイミングで言われても、なんて首をかしげる。
 「意味が分かりません」私は正直な感想を述べた。この際少し毒舌になってしまうが私は彼が嫌いではないし、かといって好きでもないというのが事実だ。そして申し訳ないながら彼の名前を知らないというのが現状である。


 固まる少年。
 私は、無言。


 両者沈黙を保ったまま一歩も動かず。


 と、そこへ見計らったかのようにテンテンちゃんが顔を出した。
 「あーもう、何してんのよ! リー」
 「テンテン…僕はまたフられてしまったようです」
 少年はテンテンちゃんを知っているようだ。状況についていけずに首をかしげると、私の幼馴染であるテンテンちゃんが状況を説明してくれた。まず肝心な彼の名前について質問すると彼の簡易自己紹介をしてくれた。どうやら、彼は『リー』という名前らしい。で、どうやら私のことが好きだというのでホワイトデーに何かプレゼントを持って告白しに行ったらどうだと言う彼女のアイディアを参考にして、プレゼントの鉛を持って告白しにきたということだった。
 「リー、この子は他の子と違って、恋愛沙汰に対して数十倍鈍感だって言ったでしょ?」
 「すいません…」
 説教を食らって、しょんぼりとうなだれているリーさん。やはり見ていていたたまれない気持ちになるが、人に興味があまり持てない私にとってやはりどうでもいいという感情が先走る。そして、私は告白されたという事実にようやく気づく。そうか、私は告白されたのか。しかしどう対処していいのか分からない。私はベンチから立ち上がる。


 「鉛は返しておきます、私には必要ありません」
 「え?」
 だって、腐るほどあるんです。と言うとリーさんもテンテンちゃんも驚いたように目を丸くした。テンテンちゃんはその後、そういえばそうだなという表情になる。家には鍛錬馬鹿で筋肉オタクの父親が腐るほど鉛を所持しているのである。これ以上鉛を所持したところで全てをつけきれるような重さではなくなってしまう。


 「それから、お友達じゃ駄目ですか?」


 私は重度の人見知り体質である。いきなり会った人と付き合うなんて野蛮な真似はできない。お友達でも千歩は譲ったつもりだ。

 またしてもリーさんとテンテンちゃんの目が驚きで丸くなる。テンテンちゃんはリーさんと顔を見合わせるとリーさんの背中を思いっきり叩いて「よかったじゃない、私のおかげね!」と叫んだ。私はリーさんに鉛を返すと、リーさんとテンテンちゃんに別れを告げる。



 「さようなら」上手く笑えているか分からないが、にこりと笑って彼らに手を振る。
 「ばいばーい!」
 「さようならー!」
 なんて口々に返答が返ってきて、私は踵を返して歩き出す。










()(20090315)