三上君は友達である
番外編 |
それは三上が城ノ崎に告白して体よく振られる結構前のある日だった。俺が体育から帰ってくると三上が教室に来ていた。 「三上」 「渋沢」 呼びかけると三上はこっちを振り向いた。手には数学の教科書。 「どうした」 「いや、数学の教科書返しに来たんだ」 さっきの時間は数学だったらしい。てっきりサッカー部の連絡かと思ったが、三上の私用なら別にいい。俺はそうか、と答えて席に戻った。しかし、よく考え ると三上は教科書を忘れた場合、このクラスではいつも俺のところに借りに来る。他にこのクラスに三上の知り合いなんていただろうか、と思っていると城ノ崎 さんが帰ってきた。 城ノ崎さんは俺の小学校からの知り合いだ。真面目な子で教室移動もいつも早い。俺は単に担当の先生が早く終わらせてくれただけだが、城ノ崎さんは今日も 女子で一番早く戻ってきた。すると、どういうわけか三上が城ノ崎さんを呼び止めた。 「あ、これ、ありがとな、助かった」 「ううん、いいの、役に立ててよかった」 城ノ崎さんはそう言って微笑むと三上の差し出した教科書を受け取った。三上はそのままじゃあ、と言って自分のクラスのほうへ戻っていく。城ノ崎さんも教 室に入って席に戻った。 彼女さんの席は俺の斜め前だ。俺は何となく城ノ崎さんに声をかける。 「城ノ崎さん、三上と知り合いだった?」 「まぁ、顔くらいは。でも向こうは初対面のつもりかもね。まぁ、体育館シューズ取りに戻ったら教室の前で困ってたから」 城ノ崎さんは同郷の好といって比較的俺と仲がいい方だ。時々練習を見に来てるみたいだったから、三上のことも見たことくらいはあったのだろう。そして三 上は俺が着替えに出た後で教科書を借りに来たのだろう。では城ノ崎さんは俺の代わりに教科書を貸したことになる。 「ありがとう」 「いいよぉ、渋沢君はお礼なんて」 城ノ崎さんはそう言って笑うとひらひらと手を振った。 と、いうようなことがあった。多分それで終わりではなかったのだろう。どこをどう辿ってその結論にたどり着いたのかはわからないが、ある日三上が急に城 ノ崎さんに告白して振られて帰ってきた。 「絶対脈ありだと思ったんだ」 言っちゃ悪いが城ノ崎さんは比較的誰にでも優しい。特に決まった友達がいないようだから、そのせいだろう。身内もそれ以外もあまりないから、結構わけ隔 てなく接することができてしまうらしかった。特に頼られると弱いらしい。俺は小さくため息をつく。 「お前、それじゃあ脈がありそうだから告白したみたいに聞こえるぞ…ともかく、何て言われたんだ」 「『三上君とはお友達のほうがうまくやれると思うんですよね、私』」 いかにも城ノ崎さんが言いそうなことだ。ここは潔く諦めたほうがいいとは思うのだが、三上は小さく首を振った。 「諦めねぇぞ…」 「そうか」 その辺りは個人の自由だから、別に俺がどうこう言うつもりはない。ただ城ノ崎さん相手では押せば押すほど悪化するんじゃないのか、とは思ったがそれも一 応黙っておいた。 そのまたしばらくした別の日、帰りしなに城ノ崎さんが声をかけてきた。確かに城ノ崎さんとは仲良くしているつもりだが、積極的に呼び止められるのは珍し い。 「何か用事?」 「うん、渋沢君に言うのはどうかと思うんだけど…三上君がさぁ」 その言葉で大体察せられた。そういえば三上は諦めないとか言ってたか。 愛想のいい城ノ崎さんにしては何とも嫌そうな顔でため息を吐かれた。俺が三上の友達だからと一応抑えようとしている素振りは見受けられるが抑え切れてい ない。ここまで嫌われるとは、ほら見ろ三上、やっぱり逆効果だ。俺はこの場にいない三上に小さく呟いて苦笑した。 「うん、聞くから、何でも言ってくれ」 俺の言葉を聴いて、城ノ崎さんはぱっと表情を明るくすると勢い込んで話し出した。これもキャプテンの務めだよな、と思いながら次々と繰り出される城ノ崎 さんの愚痴を聞く。 そうしながら、俺は心の中で三上に合掌した。 |
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2010/08/18 山田より、誕生日おめでとう |