夏の終わりかけの夜、たくさんの虫たちの奏でる音楽に少しばかり鬱陶しさを感じながら空を駆けるとその鬱陶しい音も幾分か涼しい風で柔らぐのだが、今日の出来事が頭を過ぎる度、この涼しげな風を切っているというのに顔を朱くした。今日の午前はヤマト、つまり僕を中心とした他四人での任務だった。カカシ先輩から、いつの間にか押し付けられていたこの任務、五人も要らないだろうというような内容に班のテンションは低く、特にナルトに云えることだった。いくら任務だとは云え今回はCランクという低さは流石の僕も失笑を買う。(それじゃあ、解散)一斉に去っていく中で肩の痛みが少しは和らいだと胸を撫で下ろしたのだが、ふと顔を上げると四人の内の一人だけが僕の前から消えずぽつりと残った。(あ、あの)が発した言葉はそれだけなのに、僕は腰を抜かすかと思った。



お疲れ、と何気なく云った言葉だけで悲鳴をあげて逃げる。、と呼んだだけで彼女はまた小さく声をあげる。覚えている限りを出し尽くすと日が暮れるので割愛するが、そんな態度で自分に接するから、声を掛けてきたなら誰だって驚く筈だと心の中で一人呟く。頬を掻きながらなるべくいつもの態度を装おうとして、頬がつりそうになる。









「どうしたんだい、


「や、ヤマト隊長はこの後、お暇ですか」



突拍子もない言葉にえ、と声が漏れた。を見れば、顔を俯かせながら両手をお腹の位置で組んでいたその姿は自分が今まで行動を共にしてきた中では見たこともないような、いつもの彼女らしくなく、どう反応すればよいか、自分らしくないさま。


は返事は直ぐに返ってくるものだと思っていたらしく中々返ってこない声におずおずと視線だけをヤマトにやる、それに遅れて気がつき目線を合わせるとはまた先程のような態度に戻ってしまった。確か午後にひとつ任務があるがそれは夜中に行動するものだからこの記憶が正しければこれからは空いている、が何故そんなことを聞いてくるかは意図が掴めないが今までの自分らしくない行動を取り繕うようにヤマトは笑った。









「空いてるけど、どうかしたの」


「…!じゃ、じゃあこれから付き合ってもらえませんか!」



顔を朱くしながら云われた言葉に僕は只頷くことしか成す術はなく、きゅうと胃が鳴った。


昼間から街を歩くなんて久しぶりで、太陽があまりにも眩し過ぎたことに目を細めた。人が一人通ってしまう程空いた僕との間には会話らしい会話は成り立たない。僕がに話しかける時なんて任務以外では全くないことだし、それはも同じようで何を話したらいいのか正直判らないようだ。が道順を云うときんにだけこの空間に会話が成り立つ。行き先も聞かずゆるやかに歩いている二人はまるで似てない親子のようだ。断じて恋人同士には見えないだろう。




「…あ、」




此処です、とやっと此方を見たに相槌を打ちながら見たその先には古びた看板に甘味と書かれたお茶屋だった。そのお茶屋の暖簾を潜ると外観で見たあの古びた感じは多少あれども綺麗な空間がそこには広がっていた。先を進むが一角のテーブルに立ち止まり僕を呼んだ。椅子に座ると丁度よく此処の持ち主が奥から出てきて愛想なしのおもてなしの言葉を吐いた。












「抹茶の白玉あんみつ二つ下さい」


「はいよ、」


愛想のない店主は注文を取りまた奥へと戻っていくまでその態度は変わらなかった。
僕が店主を見ていたことには恥ずかしそうに少し笑って此処の人無愛想ですけれど、とても良い人なんですと下がっていく一方だった店主の株を持ち上げた。向かい合わせのテーブルを挟んだ向こうには座っており、窓から光が丁度良く彼女を照らした。此方を見ていることに気がついたのか伏せていた顔を上げてまた恥ずかしそうに笑ったそれに僕はこの間収まったと思っていた胃痛が運悪く再発して途端に苦しくなった。それを捨てる為に何か話題でもと口を開いた直後、先程の店主が出てきてテーブルに注文の品を置いた。何て間の悪い、と店主を見やると丁度視線が交わり店主は愛想のない顔のままぎらりと瞳を光らせまた奥へと戻っていった。




「私の奢りです、どうぞ」

目の前に置かれた抹茶のかかった白玉あんみつを口に運び、一生の幸せとでも云うかのような笑みを見せるを見たらその胃痛は急激に酷くなり手に持つスプーンを危うく落としそうになる。


「大丈夫です、此処のあんみつ甘さが控えめで美味しいんです」




は僕が甘いのを苦手として口に運ぶのを躊躇っていると勘違いしてくれたお陰でこの恥ずかしい何とも云えない気持ちを知られることはなく、が云うことを信じそれを口に運ぶとほんのりと甘さの上にかかる抹茶がまた一口一口と吸うようにあんみつは減っていった。 最後まで幸せそうな表情を崩さなかった彼女につられて幸せが移ってしまったかのように心がほかほかとした。



会計をすると云って聞かないと睨みを利かせて止めない愛想の悪い店主との狭間でどうにかを説得させ会計を済ますことに成功し、外へ出ると空は夕日に染まり木の葉を照らしていた。の隣につくと彼女は空に顔を向け、綺麗ですねと云ったのに首を上下に振って同意した。









「今日はご馳走様でした、結局私が奢ってもらっちゃって」


「いいよ。あんなに美味しいお店に連れて行ってくれたんだから」


僕が胃痛に悩まされていることも知らずに彼女はまたぱあと笑った。(ありがとうございました!)人目を気にせず笑顔のまま夕日に照らされ去っていった。










木々がざわめいて、自分も同じく逸る感情にどきどきした。隣に並んだ時夕日に視線を向けたのではなく、隣に居るの顔が夕日に染まり何とも云えない気持ちにさせ、綺麗だと不意に云った彼女に思わず肯定をしたのはまさか彼女が、が綺麗だったからなんて、夕日の綺麗さなんて見ていなかったと彼女には云えないだろう。















落下する夕方
 





(200900903)()
(相互サイトさまのサイカさまに捧げます。可愛かったといってくださったテンゾウさんで挑戦したのですが、ああでもないこうでもないと迷っているうちに遅れてしまいすみません…!可愛いテンゾウと脳内で考えながら書いていたのですがどうにもヒロインちゃんが部下になると動かしにくいというか私の力量が足らないばっかりに!へたれた隊長ですみません!燃やすなりなんなりしてくださいませ!相互記念ありがとうございました!)


(200900925)
(相互サイト様の睦さまから頂きました!睦さん宅のテンゾウさんが可愛くてしかたなかったので、恐れ多くもテンゾウさんをリクエストして参りました。無茶言ってしまいすいませ…! ヒロインちゃんの行動にしどろもどろ(あ)なヘタレ隊長と内気なヒロインちゃんが可愛くて、思わずによによしました。そして名前変換、私の名前に変換していただき…家宝にします!!(←)こちらこそ相互記念ありがとうございました!!)