(大切な、ものなのだろうと私は考えていたのでしょう)
 (だからこそ、失いたくはないと考えていたのでしょう)
 だからと言ったところで、それが決してなくならないものだという仮定にはならずかくも儚く脆く弱く散っていくという命には変わりない。
 (恐れていると言うのか、)
 (この私が)
 全く迷惑なものと関わりをもってしまったものだと後悔したことは幾度もあったけれども、だからと言ってはそういう繋がりを見捨てようとしたことなど一度も無かった。不可抗力だとはいえ死んでしまったものには変わりなく、迷惑でありうっとうしがっていた頃が懐かしいくらいにその情けは胸の中でどんどん膨れ上がっていた。どうしようもなく、不可抗力。


 《赤色》。


 (私は、どうすることもできなかったというのだろうか)
 (悔やんでも、仕方の無い、)
 (ああ、なんて見っとも無い)


 「こりゃ、傑作だぜ」
 かはは、――と笑いながら鬼は言った。
 「何でお前が浮かない顔してんだよ」


 「放っておいてください」
 「ったく、どいつもこいつも辛気くせーのなんのって。ちゃんだってそんな柄じゃねーだろ」
 「……」
 噴水のふちに腰掛けながら、は近づいてきた人識からついっと視線を逸らす。
 「そんな柄だって言うのかよ! まさかお前ツンデレか、ツンデレなのか!」
 「そんな事無いです」
 の言葉を、まーいいけどよォと流しながら人識はそんな顔してっとちっとも成仏できやしねーんじゃねーの、と呟くように言う。
 「……」
 「かはは、よく死人に口なしって言うだろ。今になって聴く耳も持っちゃいねーだろうが、多分そんな顔してっと化けて出るぞ」
 「……っ!!」
 「そういう顔してるぜ、あー、あー、そんな怖えー顔すんなよ。ほら、水面で見てみろって死んだ魚の目みたい…っておいおいおいそんなに殺気出すなよ」
 めんどくせー奴だな、おい。
 人識が口をすぼめる。
 「……死んだ魚……」
 「気にしてんのかよ!」
 「死んだ、魚」
 じとりという、視線。
 「はぁ、ったくせっかく人がいい話で終わろうとしてんのに邪魔すんなよな、じゃ、俺そろそろ用事あるから行くけどよ」
 「……そうなの?」
 さっき来たばかりでしょう、と首をかしげる。
 かはは、と鬼は笑う。
 「ちょっくら野暮用があんだよ、誰かさんみてーに公園の噴水の淵に座ってたそがれてる余裕なんて俺にはねーんだよ」

 「……」
 「だー、かー、らー! さっきからじっとりしたような目で、そう睨むなって言ってんだろ。俺は悪いっちゃあ悪いかもしれねーけど攻められる要因はないしアイツもそれで本望だったんだよ。あーっ! もー、こんな事言わせてんじゃねぇって」
 って自分で言ったんだっけな。
 「傑作中の傑作だ、うわーだっせぇー」
 「ほんとに、そうですね」


 くすくすと、静かに笑い声が響く。















(20100406:ソザイそざい素材)おおおお、お題難しすぎて死にそうです。