ぱあっと明るい太陽の光を浴びながら、私は机の上で頬杖をついてぼうっとしていた。うららかな日差し。午後の授業では一番きもちのよい時間帯がちょうど今だったのだ。私は窓の外をぼんやりと見つめていると、突然向こうから鳥がこちらに向かって飛んできた。窓にぶつかるかと思えば、なんてことはなく下に巣穴を作っているようだった。
 私はなんて可愛らしい鳥なんだろうと教師の話も話半分に聞きながら鳥の親子を眺める。ちゅんちゅんぴいぴいと鳴く雛鳥達にえさをやる親鳥。そして全てのえさをやり終えるや否や、親鳥は向こうの方へとぱたぱたと飛んでいってしまった。残された雛鳥達は、ぴいぴいと名残惜しみながら親鳥を見送っている。えさを貰っても貰っても貰い足りないかのように、雛鳥達は今にも落ちんばかりの勢いで泣き喚く。


 「、じゃあ23ページの問3を前に来て解いてくれ」
 「はい」


 そういえば数学だったと適当に開いていた23ページの問3を見る。確率の問題、楽勝だった。私が授業を生半可な気持ちで受けている時はだいたいが頭に内容が入っている時だ。不破君と同じ考え方だと私は少しだけ舞い上がった気持ちで席を立つ。すたすたと前の席の人の隣を通りながら、私は壇上に上がって白く適度に短くなったチョークを右手に持った。さらさらと黒い深緑色をした黒板に、私の少しだけ歪んだ字がのたうっていく。かりかり、なんて音がして何だか滑らかに手が動いた。何でこんな問題を解かせるのかすら疑問に感じるくらいに、すらすらと手が動いた。


 解答を書き終えた私がチョークを置くと、悔しそうな教師が「よし、もう戻っていい」なんて言いながら私を席に帰す。
 私は前の席の人の横を再び通りながら席に戻った。じろじろと何となく視線を感じて気味が悪い。私は自分の席へと戻ると、がらっと椅子を引いてスカートのひだが折れ曲がらないように気をつけて座った。教師が解説を始める。「まず、この回答だが。正解だ」


 暇になってさりげなく隣の不破君のほうに目線を向ければ、不破君はすぐにこちらに気づいた。何だと目線で訴えているのが伺えるが、この授業中いかにして話し掛けるべきか私は少し悩んで、先生の目線が黒板の方へ向いた瞬間に「暇なんだけどどうしたらいい?」と書きなぐった紙を不破君にはいっと手を伸ばして渡す。不破君はそれを同じように手を伸ばして受け取る。私は手を引っ込める。不破君は紙をかさかさと広げて読んでいる。先生がこちらを向いたけれど、私は知らぬふりをして、ノートを取るようなふりをしてぐるぐると意味も無くマルを書いた。ちらりと横を向けば、不破君が何か書いている。ノート、ではないようだった。


 「で、あるからして」


 先生は饒舌に教壇の上で話しこんでいる。
 だから、その表を基にして求めるとエックスが7になるわけでしょ。なんて少しだけ先を読んでみる。


 「エックスは7になるというわけだ」


 ほら、聞く意味が無いじゃないなんてぼんやりと聞きながら教科書をパラパラとめくって後ろの問題をカリカリと解き始める。ああやる事がないと特にやろうと思っていない場所にまで手を出してしまうほどに、こんなにも暇なのかと思って一問目の角度を求める問題を解き終わる。先生がまた黒板に何か書き始めると不破君がひょいっと手を伸ばしてきたので私は鉛筆を置いて右手を出しそれを受け取る。
 私が書いた文字の下に不破君の細い字が結構な量並んでいた。


 『暇ならば携帯でメールでもしていればいいだろう。このような古典的な方法を取るとは、さすがだと言ったところだろうか。俺も暇だ。』


 だから、私はすっと携帯をポケットから取り出して前から見えないようにメールを打つ。


 『マナーモードか分からなかったから、とりあえず紙に書いたの』
 送信すると、すぐに隣で不破君が気づいて同じようにポケットから携帯を取り出した。


 『授業中にマナーモードにしておかないほど、間の抜けた男ではない』
 返信が返ってきて思わず笑いそうになって笑いをこらえる。右手でシャープペンを回しながら私は文面を考えた。左手で打つ。


 『もしかしたらピロピロなるかもしれない。だから、少し気を使ったんだけど』
 送信。
 『俺はお前の携帯がなるかと思っていたがな』
 『残念、ここちよい一秒バイブ音です』
 『俺も同じだ』
 『授業あと一分、』
 『そうだな』




 キンコンカンコン、と終業のチャイムが鳴って、「起立、礼、『ありがとうございました』、着席」なんていうお決まりのパターンが繰り返されて私は不破君と目を合わせてどきっとして一瞬だけ息がつまりそうになった。















(20100304:ソザイそざい素材