「ちゃん」
 「はい」
 「食べたね」
 「……」



 しまった、と私が思うまでに一秒もかからなかった。この人が考えていることくらい分かっていたはずなのに、してやられてしまったらしい。私はため息をつきながら俯いて片手で目を覆った。やっぱりこの人は、私が団子を食べた事に事つけて何かをする気でいるらしい。それも私にとってよからぬことになるかもしれない事を。堂々と、平然とした、いつも通りのひょうひょうとした態度で。



 「なんです?」



 私がカカシ先生の方を見て首を傾げれば、ニヤニヤとした笑みを向けられて、私は蛇に睨まれた蛙のような状況に陥る。もともとそんな状況だったのだけれど、それがもっと悪化したような、そんな気がする。もはや食べられるだけの、何の抵抗もできない弱い生き物と化していた。背筋を嫌な汗がたらりと流れていく感覚がする。ぞわり、と神経が震えた。





 「ちゃん、好きな人がいるでしょ」
 「……いえ」
 「ハイ嘘はよくないよ」



 誘導尋問のように、彼はひときわ目を細く鋭くして私を見ている。私は視線が泳ぎそうになるのを堪えながら、視線を外し、ポーカーフェイスを保とうと心がけているが、きっとばれている。既にこの時点で彼の目的は発覚しているのだから、私は知らぬ存ぜぬで通す算段だけれど、きっとそれも読まれているに違いない。私の行動パターンなんて、きっと単純すぎるから彼にはお見通しだ。おそらく、あの人にだって、お見通しだ。



 「……」
 「無言は肯定と受け取るけど、いいね」カカシ先生は、そのまま続ける。「ね、本当にあんな奴でいいの?」
 「……」私は答えない。
 「ふうん、それじゃ、実はもう既に恋人がいたりしちゃった……」
 「!!」
 「なーんて、冗談だけど、ね?」カカシ先生のマスクに覆われた口元がにやりと笑う。「見事に引っかかった」



 (してやられた!) と私が思う間もなく、逃げようとする私の背後にはカカシ先生が立っている。



 「ほーら、王子様のご登場ですよーん」
 なーんちゃってね、とおちゃらけた言い方をしたカカシ先生のその指差す先には、私が、ずっとずっと、



 (なんて、……反則技)















(20112128:ソザイそざい素材