(ね、、この花言葉しってる?)
 (しらないよ、イノちゃんのが詳しいでしょ、そういうの)

 こそこそとアカデミーの校外授業中に話しかけてきたと思えばそんな事か、と私は首をかしげてしまった。なんなのだろうか。そんなことばかりが頭をよぎってしまって、うっかり私の眉間にはしわがよっていた。イノちゃんが私の眉間を突く。(いたっ)と魔の抜けたような声が出て、(しーっ!)と口をふさがれた。先生がこちらをちらりと睨む。イノちゃんがへらり、と笑ってごまかす。



 (! あんたのせいで睨まれたじゃない!)
 (……イノちゃんも同罪だよ)
 (それはそれでいいとして! そうよ! コイバナなのよ!)
 (はぁ、)



 イノちゃんがサスケくんを好きなのは周知の事実で、というか9割の女子の羨望の的になっているのは『サスケくん』だった。私は例外だけれど、確かにまあ顔は二枚目だと思う。私がタイプじゃないだけで、なんていったら一回イノちゃんにはったおされそうになったので(ライバルは敵!なんていってたくせに)私は敵を作らないためにこの話題があがった時はかっこいいね、で済ませるようにしている。惚れちゃだめだからね! なんて自慢げに言われるのだけが何か心にわだかまりをつくる。惚れないよ! なんていった日にはどんな何が待っているか考えるだけでも恐ろしい。女って怖い、そんな事を感じたりもする。



 (で、アンタ誰か好きな人いないの?)
 (……別に)
 (えー! 私にだけおしえてよ、こっそりでいいから)
 (いないってば)
 (じゃあさっきの間は? なに? 誰かいるんじゃないの?)
 (だーかーらー、何度聞いたって、いないよ)



 そっぽを向いて答えれば、(あやしい!)とイノちゃんが詰め寄ってくる。私は紙に課題である野草を描きながら、墨が飛び散らないように気を付けていた。しかしイノちゃんはお構いなしだ。恋する乙女は強かった。一度スカシを食らったくらいじゃめげようともしない。



 (ぜったいいるのよ! 噂が何個もあるんだから!)



 何の噂だ!
 思わず叫び出しそうになるのを堪えながら、それでも全身の毛が逆立つような感覚は止められない。ぞわわ、と背筋が寒くなるような悪寒を感じて、私は心当たりはない、と過去の記憶を思いかえす。どこにそんなうわさが流れるような何かがあったのだろうか。それも、いたって普通な私に。どこに、恋の矢が潜んでいたのだろうか。あらぬ誤解は解いておかなければ、後々面倒事になりそうで、私はぶるりと震えた。



 「ほおら、心当たりがあったんじゃないの?」






 迫ってくる彼女に、先生の「こら! そこ静かにしなさい!」と言う怒声が響き渡り、私は一命を取り留める事となる。
 しかしながら、この後ずっと彼女に詰め寄られることとなったのは言うまでもない。















(20112128:ソザイそざい素材