近づいてはいけないと、本能が訴えかけていると言うのにその場を動けなくなるのは恐怖を感じていたからだろうか。私が寿司屋の「ヤスイヨー」という勧誘を振り払えば、そこにはいかにもな格好でこちらにガン飛ばしているサングラス姿の二人組の男。スーツに赤や黄色や青の派手なシャツを着こんでいらっしゃるチンピラさんがいた訳で、私としては避けたい事態に遭遇してしまったことをあらわしていた。まずい、と思ったのも一瞬で、思考を遮られるかのように彼らの怒号に巻き込まれた。あてつけだった。彼らは常にあてつけと隣り合わせで生きているような存在だ。だからと言って、邪険にするわけではない。彼らのおかげで防げている犯罪も少なからずあるのだから。





 「オイオイ、何してんだよネーちゃんよぉ。学生だからってやっていい事と悪い事があるって知らねーのかァ?」
 「いきなりぶつかって侘びも無しかよ! オラ!」





 一瞬びくりとしそうになったが、 こういう時の世渡り術は一つ。私は鞄の中から財布を取り出して中から福沢諭吉をひっつかんで渡す。体力のないモノは生存競争には勝ち残れない。しかし、やはり例外も裏技も存在はする。チートだ。要するに頭を使って、弱いなりにどう身を守るのかを考えれば自然と答えは出てくるものだ。生憎この手の脅しは初めてではない。命を差し出すぐらいなら有り金差し出す。無益な争い事は、苦手だった。





 「すみませんでした。これで見逃していただけますか?」
 「おう、話の分かる奴で助かるな……ゴウフッ」





 私の思惑など関係ないとでもいうように、無益な争い事を起さないという方針はいつも通りねじまがった。そして男もねじまがった。死んではいないがぴくぴくと地面とご対面しながら意識を飛ばしているのでこれは相当痛いのだろうな、という想像だけをしながら、その騒ぎの元凶を探せば池袋最強の男である金髪がいやでも目に入った。バーテン服に色つきのサングラスときたら、それはそれは、平和島静雄さんにあらせられることは確かで。





 「何人の知り合いに勝手に手ェ出してんだ、あぁ?」





 ひいいい、ともう一人の男が地に伏した男を担ぎ上げながら逃げ出していくのを眺めながら、その男たちに対してものすごい顔でガン飛ばしていた男を眺める。いつみても整った顔立ちをしていてやっぱり天は人間に二物も三物も与えているじゃないか、と思う。やっぱり公平と言いながらも誤差が生じているに違いない。美人薄命は嘘で実は年齢詐称に違いない。じゃなくて、この人。私の平和クラッシャーである平和島静雄さんだ。





 「怪我は無いか?」
 「おかげさまで私の諭吉さんも無事でした。ありがとう、静雄さん」
 にっこりと片手で諭吉さんを振りながら答えれば、「またお前は金で解決しようとしやがって…」とため息をつかれる。
 「誰かさんみたいに私の事を一目見て逃げてくれればいいのだけど」
 「あぁ!? それってもしかしてもしかしなくても俺の事言ってるよな……」
 ぴきぴき、と嫌な音がする。そうだよなァ、とぱきぱき指を鳴らす音。





 「ちょっと静雄さん自意識過剰ですよ、顔見て逃げる人なんてまだたくさんいますし」
 「……それもそうだな、悪かった」
 「あ、そうだ! 助けてもらったお礼にサイモンさんのお寿司でもどうです? さっき断っちゃいましたけどあの人ならいつでも歓迎してくれると思いますし」
 あー、と諦めたように彼はこめかみに手を当てる。
 「……わかった」















(20120104:ソザイそざい素材)そんなこんなでこんな雰囲気のお話にしかならずなんか設定生きてる?生きてる?