さて、時事行事はもう既に無いと思って過ごしていた私であったが、嫌な予感がして事前に箱入りの饅頭を数十個買ってきた。何事にも下調べは肝心だと思いながらおいしそうな誘惑に負けて一つ饅頭を摘む。さすが銘菓だけあり美味しかった。これを皆に分けてあげるつもりだが、例の言葉を言われたらこれを身代わりに差し出すと言う魂胆もあったりなかったりする。さすがにもう子供じゃない奴もいっぱいいるので(寧ろ私よりも大きい人ばかりだ)、私にわざわざそんな無意味な行動をするはずが無いだろうなんて踏んでいた。


 しかし、である。やはりというべきか。
 デイダラをはじめ、サソリも小南もペインもわざわざ私の部屋に押しかけてきて子供みたいに「トリックオアトリート!」なんて言うものだから思わず噴出しそうになってしまった。なんとも暁とは祭り好きな奴が多いようだと言う事が分かって、本当に殺人集団なのかと疑ってしまう事が多々ある。全く何を考えているのだろうか、私には到底理解できそうに無い。


 「今日は何の日か知っているか」
 「そんな事、」私はどう答えようか迷う。知っていると答えても知らないと答えても結局あの言葉を言われるような雰囲気が漂っていたのだ。私は少し考えて前方に仁王立ちして立ちふさがっているイタチに告げた。
 「分かるに決まってるわ、ハロウィンでしょ」


 「では、トリックオアトリートと言えば悪戯をしても言いと言う事を知っているわけだな」
 「でもお菓子をあげれば無効ということも、知っているから悪戯なんてできないわよ」
 「では団子をよこせ」


 なんとまあ、ピンポイントで来たが私は用意周到なので持っていない訳が無かった。彼の好物くらいはみんな分かっているはずだし、私だってしばらく一緒に過ごしていれば分かる。


 「はい」
 「……」
 団子を差し出すと、彼は複雑な表情になって眉をしかめた。そんなに悪戯がしたかったのだろうか、しかしそのような面倒な事にわざわざ付き合ってやるような義理も恩も無い私はただただ団子屋の袋を彼に差し出す。


 「悪戯しようと思ったって無駄なんだからね」
 「…まあいい」


 私が悪戯っぽくニコリと笑うと、彼は苦笑しながら皆のように大人しく引き下がった。私は余ったお菓子を一口頬張りもしゃもしゃと食べながらその甘美な味に酔いしれる。全くこれを銘菓と言った人は本当に天才だ。この銘菓を作った人は本当に天才を通り越して職人だ。ほっぺたが落ちてしまいそうなほどの美味しさとは何のことだか良く分からなかった私が、その意味を理解するまでに至った美味しさなのだから。この銘菓を作った人はよほどの腕を持っているのだろう。今すぐに表彰状を渡しに行きたい勢いである。


 私はイタチにもこの銘菓をあげれば良かったかもしれぬと思いながら、彼は今頃、団子を嬉しそうに食べているんだろうなと思う。そこで、ふと饅頭の数を見れば私が食べた二つとデイダラ達に上げた分を除いて一つだけ足りない。


 イタチは本当に素直じゃない。
 私は彼の行動を思い返しながら、くすくすと笑った。










(20100105:ソザイそざい素材) イタチさんがこんな俗物的な祭りに参加するのかは不明ですがきっと可愛いヒロインの為ならやると思う。