昼食前、久しぶりにインターホンが鳴らされたので私は思わずどきっとした。久しぶりの来客だ。 ぱたぱたとスリッパのたてる音が廊下を響き、がちゃりとドアノブをひねればそこには高校時代からの恋人であるバーテン服の彼の姿があった。私はいつも通りの唐突な訪問だなあと呑気に考えながら、「いらっしゃい」と彼、平和島静雄に声をかけた。 「いつも悪い」 「今からカレー食べるけどいる? 昨日の残りだからたくさんあるよ」 「ちょうどいいな、俺はちょうど腹が減ったところだ」 「そっか、じゃあちょっとカレー温まるまでリビングで待っててね」 「おう」 廊下をパタパタと歩きながら、私はキッチンへと戻る。 鍋の中のカレーはいい感じに温まりつつあった。香辛料のいい香りがふわりと漂ってきて、やっぱりカレーはいいなあと思った。カレーはお手軽だし献立に困った時も三日はカレーが食べられるし、香辛料のおかげで普通の煮物よりも長持ちする。そのうえ冷凍庫などで冷凍しておけばいつでも好きなときに解凍して食べることができる。 静雄は我が物顔で、椅子に腰掛けると私のほうに視線を向けて話し始める。 「ここにこうやって座るのも久しぶりだな」 「そうだね、しばらくバタバタしてたもんね」 バタバタとはまあ池袋で発生した黒いデュラハンであるセルティによる一件についてだ。セルティは首が見つかるまで森羅の家で居候するようなそんな感じの話だったと思う。それにしたってセルティはいい奴だ。見た目がデュラハンだからといっても、中身は普通の女の子のような可愛らしさがあってとても可愛い。 「セルティ元気にしてるかな」 ここ数日でめまぐるしく池袋が動いたので、ニュース番組もいいネタだとどんどん報道を流した。今はもう報道も当時ほどの盛り上がりはなく、トップニュースにその事件があがることはあまりなくなった。取り上げられた所で、最後か、最後から二番目に三十秒ほどくらいだろうか。私は事件のほとぼりが冷めるまではセルティに会いに行かないほうがいいかと思って自宅でのんびりと仕事をしているわけなのだけれども、やはり友達の安否は気になるところだと思ったりする。 「元気そうだったぜ」 「そっか、よかった」 一足先に彼女に会ってきたらしい静雄の言葉に安心する。 「そう言えば、セルティがまたお前のカレー食いたいって言ってたぞ」 「あ、じゃあタッパーにいれてセルティのお家に持っていってあげようっと」 お玉で掬ったカレーをご飯の盛ってあるカレー皿にかける。美味しそうな香辛料の匂いがキッチンに広がる。多分、その魅惑の香りは部屋全体に広がっている。その推測を裏付けるように静雄が言う。 「これはマジでいい匂いがする、」私は2皿目のご飯のもってあるカレー皿にカレーをかける。「のカレー旨いもんな」 「ありがと、出来たから持ってくよ」 私はカレー皿とスプーンをお盆に載せて机へと運ぶ。我が家はキッチンとリビングが繋がっている1LDKみたいなマンションなので皿を運ぶのはとても楽である。私は静雄の座る前に銀製のスプーンと湯気がほこほこと出るカレーを出す、そして私が座る静雄の前の席に自分の分のスプーンとカレーを置く。 「いただきます」 「どうぞ」 こんな日常が、ずっと続けばいいなんて思ったりする麗らかな午後の陽気。 私は彼と共に自家製カレーを一口、頬張った。 (20100105:ソザイそざい素材▲)零様に。リクエストありがとうございました! |