渋谷某所、某マンションにて。 折原臨也は携帯電話の着信音が鳴ってまもなく電話の通話ボタンを押した。 「もしもし、」そして相手から電話が来る事が既に分かっていたかのようにニヤリと笑う。「久しぶりだねえ、元気してたかい? 君に全く連絡がとれないものだからてっきり誰かに攫われたか何かして既にあの世にでも葬られてしまった後かと思って焦っていたよ」 『そのムカつく喋り方は相変わらず変わっていないようね死ね折原』 電話の相手はいかにも不機嫌そうな声で話している。ざわざわとした喧騒はあまり聞こえない事から静かな部屋から通話しているかどこかの郊外の静かで尚且つ携帯の電波の通じる所からかけているのだろう。 「相変わらず君も酷いなあ、」臨也はケラケラと笑う。「で、そんな君からわざわざ電話をかけてきたんだからさぞ重要な用事でもあると見たんだけど当たってる?」 『そういわれると無いような気がしてきたから今すぐに電話を切ろうかと思えてくるって不思議だなあ』 「全く素直じゃないのは誰に似たんだろうね」 臨也は一人のバーテン服の男の姿を思い浮かべながら苦笑した。携帯を右手から左手に持ち換える。 『お前今何処にいる』 「さあ、どこだろうね」 『アパートか』 「あって話したほうがいい内容なのか、そのまま電話で話したほうがいい内容なのかにもよるかもしれないけれど君が夜這いにでも来てくれるって言うならまあ歓迎でもしておこうかな」 『やっぱり死ね』 「言い方までシズちゃんに似てきたんじゃないの? 気をつけたほうがいいよその内君も自動販売機を持ち上げたり電柱をへし折ったり看板をひしゃげさせたりするまでにいたるかもしれないし、その上まだ情報を完全に掴んでいない俺が殺される可能性をあげるのは俺にとっても君にとっても得策とはいえないからね」 『私はそんなに怪力だと? 握力なんて20あるかないかなのに』 「へぇー、意外と非力だね」 『二十代一般女子の平均はそのくらいのものだと思っていたんだけれど違ったかな』 「平均値でモノを言うのをいいかげんやめてくれないかな、ややこしい」 『まあという事で、私も自動販売機を持ち上げたり電柱をへし折ったり看板をひしゃげさせたりするまでにいたるかもしれないから覚悟しておくといいと思うよ』 「殺生な事を言うようになったよ全く。あ、昔からだったね」 そして臨也はクスクスと笑ったかと思えば声のトーンを少し落として話し始める。 「で、内容は」 『それがまあ、今とんでもない人に会ったんだけど』 「?」臨也は眉を潜める。「誰だ」 『静雄』 「シズちゃん?」 『じゃないけど、化け物みたいに強い人』 「それってシズちゃんじゃないの」 『違うよ、だって静雄だったらすぐに分かるでしょ、分かりやすい格好してるんだから』 「まあ、それもそうか。で、どんな奴だった?」 『そうだな、背が高い男だった』 「君より背の高い男が一体何人この世の中に蔓延ってると思ってるのか知らないけど、まあシズちゃんと似たようなバケモノがそう何人も居ると思えないし取り合えず情報は探して見るよ」 『いや、多分すぐ見つかると思う』 「どうしてそんな事が言えるんだい、」 『だって、あなたのアパートに血相変えて走ってったもの』 「そうか、それは残念だ」臨也はハハハと声を出して笑った。「会うことはきっと無いだろう」 『あの人きっとすごく粘り強いと思うけど』 「その粘り強さでこちらも答えてあげればいいだけだろう、何の問題も無い」 ハハハ、と笑っていたらドオンと受話器の向こうで破壊音が響いた。 『そういう事だから、まあ頑張って逃げるといいと思う』 「どういうことか一瞬で理解できたけどきっと彼に見つかる事はないね」 『なんだか自信満々じゃない』 「いつも通りだよ」 『私の名前気持ち悪いから呼ばないでってあれほど言ってるのに』 「」 『嫌がらせか!』 「愛情表現さ、じゃあ俺は忙しいからこれでお暇する事にするよ」 『ああ、今ので多分アナタの居場所ハッキング出来たから』 「知ってるよ、でもまあ間に合わないだろうね」 『あなたが逃げるのが?』 してやったりという声色の彼女を一蹴するかのように本当の事実のように飾り付けた言葉を。 「君と一緒に居た男が俺に追いつくのが」 『なん』 「最後まで言わせないよ、なぜなら俺が一番頭がいいからね」 彼女が怒りながら悔しそうに携帯に話しかけている様子が臨也の目に浮かぶ。ハハハ、と涙が出そうなくらいに笑いながら臨也は携帯のボタンを押して強制的に通話を終了した。 「さーて、そろそろ逃げないとヤバイかな。全く俺のいとしのちゃんはなんて面倒な事を持ち込んでくれるんだろう全く」 臨也はクスクスと笑いながら駅の改札を通り電車へと乗り込んだ。 (20100102:ソザイそざい素材▲) |