道の真ん中で聞きなれた声に呼ばれて振り返ればそれは、案の定はたけカカシの声だった。何の用だろうと思っているとどうやら表情に出ていたようで、カカシに眉間を突っつかれた。痛い、と顔をしかめてムッと頬をふくらませばカカシがさも面白そうにしながら、にっこりと微笑んでいる。昔から思っていたけれど、どうにも昔から素性がつかめない。するりと手の中をすり抜けてどこかへ行ってしまうような喪失感。そして以前からのギャップになれない私としてはこの軽薄な口調にどこかひっかかりを感じざるをえなかった。でも、色々と面倒をみてくれたりする優しいひと。


 「なーに無愛想な顔してるの」彼は私の頭をくしゃくしゃと撫でた。「全く、全然変わってなーいね」
 私は首を横に振る。変わってるってば。まあ、例えていうなら、あなたへの気持ちとか。
 この人は気づいてないかもしれないし気づいていながらにして知らないフリをしているだけなのかもしれないけれど。それでも昔より好きになってしまったなんていうのは、変わりようもない事実だった。少し悔しいような負けているような気分になったけれど、惚れてしまった時点で彼に負けたも同然だった。


 「あーるよ、」彼は続ける。「全然変わってない」
 「カカシは、」私は彼がぐしゃぐしゃにした頭を整える。「変わった」
 「例えばどこが?」
 「全部」

 まだ私が十代前半の頃には彼よりも高かった身長は、もはや既に抜かされてしまっている。それにあの事件以来彼の性格も丸くなった。色んなものを失って、大切なものを得て、でも大事なものも失って。その苦悩は計り知れない。それに耐えられる器量を持っていなければ、こんな職業なんてやっていられない。それでも、里の人を守るため。道具として戦うのが忍だから。


 「んー、まあ当たってるかもね」


 そんな口調で茶目っ気たっぷりに言い放つ彼は以前の彼からしたら想像すら出来なかった光景で。こうしてまだ、彼と一緒にだらだらと会話できている自分も信じられなかった。そもそも彼に関してだけ言えば当時、相当女子に人気があったものだから家が近所じゃなかったら近づくのも困難だったかもしれない。そんな事を思い出して苦笑した。


 「カカシ」
 「なーに」
 「なんでもない」
 「気になるでしょ、そういうの」


 そういってクスクスと笑うカカシ。しかし目が笑ってない。


 「ちょっと呼んでみただけ」
 「意味は無いって? 全く変な所は変わってないんだから」はぁ、とため息をつくカカシ。「ま、そういう所がかわいいんだけどね」
 私は可愛くなんて無いよ、なんて思いながら首を傾げれば「分かってないねぇ」なんて言いながら彼は笑った。


 「ほら、差し入れーだよ」彼は何処からとも無く、甘味所の紙袋を出すと私にほいっと投げてよこした。
 私は焦りながら、忍もちまえの瞬発力で紙袋を落とさないように一歩前に出て両手で受け取る。「ナイスキャッチ」なんていうお気楽な声が聞こえて彼のほうを睨んだ。


 「落としたらもったいない、でしょ」
 「まあまあ、そんな恐い顔しないで」彼はからかっているのだろう、そんな無邪気な悪戯っ子のような笑みで私の反応を楽しんでいるようだ。
 「……もう」


 ぷいっとそっぽを向いて紙袋の口を開いてちらっとのぞき見る。おいしそうな焼き芋が入っていた。
 そういえば、紙袋もあったかくてほかほかと気持ちのよい体感温度である。自然と顔がほころんでいることに気づいた私は慌てて表情を元に戻した。でも、おいしそうな焼き芋である。香ばしくて、素朴な香りが鼻をくすぐる。おいしそう。


 「どう、気に入ってくれた?」
 「うん、おいしそう」


 ころりと機嫌が直ってしまう安上がりな私は、首を傾げたカカシに向かってにっこりと微笑む。ああ、私幸せかもしれないなんて考えが浮かぶ。おいしそうなこの焼き芋は確か、限定販売で入手するのが難しい品。こんなおいしそうな焼き芋をくれるカカシはとてもいいひと。
 だからお礼を言わなくちゃ。


 「ありがと!」
 「どーいたしまして」










(20091029:ソザイそざい素材)百合様に。リクエストありがとうございました!